小説でもドラマでも、医療モノは大人気です。
素人の知り得ない、人の生命に関わるシビアな世界が垣間見れるのが醍醐味。
医療小説の中でも、特にリアリティがある、現役の医師が書いた作品をご紹介します。
「ひとつむぎの手」知念実希人
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2019年本屋大賞ノミネート作にもなっていて、医療業界の方からも絶賛の声があがっています。
大学病院での出世か、自分が信じる正義か…主人公の決断を見届けましょう。
「ひとつむぎの手」知念実希人|登場人物
- 平良祐介…主人公。30代半ばの中堅心臓外科医。
- 肥後太郎…心臓外科の医局長。部下には横柄で上司には媚びる、典型的な嫌な奴。
- 赤石源一郎…心臓外科の主任教授で、心臓冠動脈バイパス手術の第一人者。
- 針谷淳…赤石の甥で、祐介の後輩でもある。優秀な医師。
- 諏訪野良太…循環器内科の医師で、祐介の大学の後輩。人付き合いがよく、病院内の情報通。
- 柳沢千尋…心臓外科の准教授で、小児心臓外科のトップ。祐介が研修医時代に指導してくれた。
主人公は、大学病院で心臓外科医として勤務しています。
患者さん思いの熱意を持った医師だからこそ、泊まり込みも多く、妻子の待つ家に帰れるのは週に1〜2回。
そんなとき、ひとりで3人の研修医の指導を任されることになります。
- 郷野司…手術に興味があり、体育会系で直情的な性格。
- 牧宗太…心臓外科の研究などアカデミックな面を重視。
- 宇佐美麗子…小児心臓外科を希望。努力家で才能もあるが…。
彼らとの関わりの中で、祐介が医師として大切にしていることや、患者さんへのスタンスが浮き彫りになって、より祐介を応援したくなるのです。
「ひとつむぎの手」知念実希人|あらすじと内容
祐介は、赤石教授と肥後に呼び出され、研修医3人を指導してほしいと依頼されます。
研修医たちを心臓外科に入局させることができれば、希望していた富士第一総合病院への出向を叶えてやるというのです。
逆に、研修医の勧誘に失敗したら、心臓外科のない沖縄の関連病院に出向させると脅されます。
研修医たちが心臓外科に求めるものを模索して、良かれと思って対応するものの、ギクシャクしてしまってうまくいかない…。
そんなとき、赤石教授が薬剤臨床試験データを改ざんしているという怪文書が届き、院内は騒然。
祐介は、怪文書の犯人探しまで依頼されてしまいます。
「もし怪文書を送った者をつきとめたら、研修医たちが入局しなかったとしても、富士第一への出向を検討してやってもいい」
またしても、同じエサをぶら下げてくる赤石…祐介に断れるはずありません。
あれもこれも全部丸投げされる、損な役回りですが、それほどまでに富士第一に出向したいという気持ちの現れなのです。
心臓外科の世界では、手術実績と経験を積まないと出世できない
心臓外科は、勤務年数をいくら重ねても、それだけでは一人前になれないんです。
心臓手術の件数の多い病院へ出向して、実績や経験を積む必要があります。
逆に、心臓手術のない病院に出向させられては、心臓外科医として飼い殺し同然。
技術を磨く場を与えてもらえないと、自分の努力ではどうにもならないのが、外科の世界なんです。
権力や出世欲か、信じる最善の医療か…祐介の決断に感動
医療現場では、日々命にかかわるドラマがくり広げられています。
患者ひとりひとりには、主治医が出世できるかどうかや、院内のいざこざは関係ありません。
研修医たちが心臓外科を選んでも、選ばなくても、それは彼ら自身の人生。
物語は二転三転し、人間関係も、力関係も、どんどん変わっていきます。
針谷への強烈な劣等感や、嫉妬心を抑えきれず、自己嫌悪に苛まれるのは、それだけ医療への熱意、負けたくないという気持ちがあるから。
医療の世界での権力、勝ち負けでいうと、祐介は負けたのかもしれません。
ですが、精神的には、祐介は勝ったといえるでしょう。
どんな結末を迎えるのか、最後までドキドキしながら読めますよ。
余談|知念実希人さんの感情表現やセリフがちょっと苦手
例えば、医局長の肥後の言葉が、THE悪役!って感じで、マンガみたいだな…と感じたり。
研修医3人が反発しているときも、さすがにそこまでわかりやすくそっぽを向いたりしないだろー、とか思っちゃう。
祐介のセリフも、見せ場のシーンになればなるほど、やけにキザなんですよね。
もうちょっとナチュラルな表現になればなぁ…と感じますが、これも好みの範囲かもしれません。
「ひとつむぎの手」知念実希人|正義を貫く若手医師の葛藤と決断
「ひとつむぎの手」には、現役医師だからこそ書くことができる、医師の悲哀や葛藤が描かれています。
祐介のように、純粋な熱意は、権力者に利用されるさだめ。
病院が舞台ではありますが、普通の企業でも、似たようなことはあるかもしれませんね。
医師が倫理観や正義を持っていることは、患者にとっても同僚にとっても幸せなこと。
自分の適性を見極めて、納得した上で先へ進む気持ちは、世の中の社会人にも通じるものがありますよ。
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「ひとつむぎの手」は、2019年本屋大賞ノミネート作。
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