死と向き合うことは、生き方を考えることでもあります。
言葉のひとつひとつに、この世の輝きが宿っていて、死に向かうのにあたたかく包み込んでくれる作品をご紹介します。
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ナスミは、43歳でこの世を去りますが、短い人生の中で、多くの人の心に爪痕を残します。
ちっともかわいそうな感じじゃなく、同情の涙でもなく、さわやかに浄化してくれるような作品。
明日も頑張って生きていこう、と思えますよ。
2019年本屋大賞にノミネートされた作品で、ドラマ「富士ファミリー」の関連作品でもあります。
「さざなみのよる」木皿泉|登場人物
「さざなみのよる」は、富士山のふもとにある、ニセコンビニみたいな何でも屋「富士ファミリー」を舞台にした物語です。
- ナスミ…主人公なのに43歳にしてガンで亡くなる。自由奔放でつかみどころがないけれど、自分の信じた正義は貫く。
- 日出男…ナスミの夫。人が良くてぼんやりしているが、激しいナスミとは好相性。
- 笑子…ナスミの叔母。ナスミの名付け親で、いちばんの理解者。
- 鷹子…ナスミの姉。百貨店勤務でしっかりした人。
- 月美…ナスミの妹。嫁ぎ先でうまくいっていない。
- 清二…理髪店をやっている。中学生の頃にナスミと家出未遂を起こした。
- 愛子…兄がナスミにお金を貸していて、その返済金を受け取るために毎月ナスミに会う。
ナスミが亡くなった直後、遡って過去の話、そして未来…長期間に渡って語られます。
木皿泉は、夫婦で活動されている脚本家・作家
木皿泉とは、脚本家の和泉務さん、妻鹿年季子さん夫妻のペンネーム。
ドラマ「野ブタ。をプロデュース」「Q10」などを手がけられています。
ご夫婦で、脚本を「上書き」し合いながら作品を書き進めていて、どちらも欠かせない存在。
小説家としては、「昨夜のカレー、明日のパン」がデビュー作。
人の生と死をあたたかく見守るような作品が特徴です。
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「さざなみのよる」木皿泉|あらすじ・内容
「さざなみのよる」は、43歳で亡くなったナスミの、周囲の人々の視点で描かれます。
最初は、夫の日出男の視点、そして鷹子や月美、笑子…いろいろな人の口から、ナスミとの思い出が語られます。
日出男は、ナスミと人をひらがなやカタカナに例えて遊んだこと。
月美は、笑子ばぁちゃんから教わった「おんばざらだるまきりくそわか」という呪文のような言葉の意味を、改めてナスミに教えられます。
生きとし生けるものすべてが幸せでありますように、という意味の真言。
だけど、月美は、嫌いな義母まで幸せになるのはシャクだと思って、今まで唱えられませんでした。
でも、ナスミの言葉から、生きとし生けるものの中に、自分も入っているんだと気づきます。
ナスミがいなくなったあとも、周囲の人たちの心の中には、ナスミの生きた証が雫のように波紋を広げているのです。
理髪店の清二と、中学生時代の家出の思い出
理髪店の清二は、ナスミが亡くなったと聞いて、中学生時代のことを思い出します。
昔ナスミと家出しようとして、すっぽかされたこと。
ナスミが語った「ばぁちゃんがオハギを作るのを手伝わないといけなかったから」という理由の意味を、今になって知ることに。
妻の利恵は、ナスミと面識がないと思っていたのに、実は清二の知らないふたりの会話があったことも。
ナスミは、感覚派というか、自分の行動の意味や意図を、あまり言葉で説明しないタイプ。
だから、清二にとっても、わからないままのことが多かったんです。
利恵は、想像していた以上に、清二のことを理解して一緒にいたのですね。
ナスミと愛子の心の交流
ナスミにお金を貸した啓介は、月々の返済の受け取りを妹の愛子に任せました。
愛子は、自信がなくて周りの目を気にするタイプでしたが、毎月ナスミに会うことで変わっていきます。
「あんた、かわいいんだからさ、バカみたいに笑いなよ」
愛子にとって、ナスミは憧れで、希望の星で、なりたくてもなれない存在。
どうして、私はナスミさんじゃないんだろう。
ナスミさんみたいじゃなくて、ナスミさんになりたい。
でも、ナスミも愛子に救われていたのです。
ナスミは「私になりたいなんて言ってくれる人がいるとは思わなかったよ」と言います。
「私は私でよかったんだね。最後の最後に、そんなふうに思わせてくれて、ありがとう」
ナスミは、ぶっきらぼうで人に媚びたりしないし、自分の軸を持っているように見えるのに…。
ナスミの病状が悪くなり、日出男が代わりに返済金を持ってきたりして、そこから新しいストーリーが芽生えるのです。
日々のささやかなものたちが愛おしくなる
ナスミが病床で眺める風景はとても美しく、日出男がお弁当箱をパタンパタンとたたむ仕草ひとつとっても、幸せがあふれています。
生きているからこそ、目にすることができるもの。
すべてのなにげない物事に、「ありがとう」と感じます。
ガンだから、痛みや苦しみもあるんだけど、生きている間にしか体感できない、この世の幸せや美しさを、ナスミは十分に味わったのです。
生のきらめき。感動と祝福。
言葉にすると陳腐で、どんどん遠ざかる感じがするんだけど、つまりはそういうことなのかな。
「さざなみのよる」木皿泉|まとめ
人はいずれ死を迎えるもの。
生きている間はもちろん、いなくなってからも、周囲の人たちに愛され、記憶され、印象を残すことが、人生の価値なのかもしれません。
ナスミの人生は短かったけれど、家族や同級生らの人生のワンシーンには、ナスミの生の痕跡があります。
雫が「ぼちゃん」と波紋を広げるように。
死は終わりじゃなく、波紋の始まり。
きっと、ナスミは「だからぁ、生きるのも死ぬのもたいしたことないんだって。バカみたいに笑えばいいんだよ」って言うんだろうけどね。
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