辻村深月さんは、10代の若者を中心に絶大な人気を誇る作家さん。
30代以降の、ある程度人生経験を重ねた人が読んでも、言い表せないほどグッとくるんです。
言葉にならなかったはずの感情をすくい上げ、繊細な人の心を表現するから。
どうして、こんなにも私の気持ちが分かるんだろう?って思いながら読んでいるよ。
自分の居場所を探したり、誰にも理解してもらえないと孤独を感じたり、自分だけは特別だと内心思っていたり…。
誰しも一度は抱いたことのある感情に、的確な言葉を当てはめているから、「これは自分のことだ」「私のことを書いている」と突き刺さるのです。
この記事では、そんな辻村深月さんの小説の中から、おすすめの13作品をご紹介します。
「読む順番を意識した方がいいもの」「いつ読んでも楽しめるもの」も解説しているので、参考にしてくださいね。
たくさんの小説を読んできたシーアの、個人的なおすすめポイントたっぷりだよ!
辻村深月の経歴・受賞歴|10代の若者に寄り添う小説
辻村深月さんは、1980年生まれ、アラフォー世代の作家さん。
2004年、「冷たい校舎の時は止まる」でメフィスト賞を受賞し、デビュー。
学校を舞台にした物語で、まさに辻村深月さんの代名詞のような作品でした。
その後も、「ぼくのメジャースプーン」「凍りのくじら」「ツナグ」と話題作を発表。
2012年には「鍵のない夢を見る」で直木賞を受賞。
直木賞には、それまでもそのあとも何度もノミネートされていたけど、正直、「鍵のない夢を見る」よりももっとふさわしい作品があるのにな…と思ってる。
2014年から毎年ノミネートされていた本屋大賞も、2018年「かがみの孤城」でついに大賞を受賞されました。
数々の作品がドラマ化・映画化され、今や日本を代表するメジャーな作家さんに。
デビューから一貫しているのは、10代の多感な時期の読者を意識すること。
一方、私生活では、8歳と4歳のお子さんがいらっしゃるお母さんでもあります。(2020年3月現在)
作家としてのキャリアが長くなるにつれ、徐々に主人公の年齢層も高くなり、子ども目線ではなく大人目線で、結婚や出産をテーマにした作品が増えてきました。
それでも、教室のすみっこでみんなの顔色をうかがう子に、そっと寄り添うような感覚は、ずっと変わらないまま。
そんなところが、10代の読者たちに「私を理解してくれる」「自分のつらさをわかってくれる」と受け入れられる理由なのです。
作品同士のリンクあり!読む順番に注意
辻村深月さんの大きな特徴は、ひとりの登場人物が複数の作品に登場すること。
たとえば、谷川ヨシノという、地域活性化デザイナーは、「島はぼくらと」「青空と逃げる」「傲慢と善良」などに登場します。
ヨシノさんに関しては、重要ではあるけれど「知っているとちょっと嬉しい」くらいですみます。
でも、もっと大きな意味で、ストーリーの鍵を握る人物が、別の作品の主人公だったりすることも。
読む順番を間違えると、結末に感動できなくなっちゃったりしそうだね。
辻村深月作品の醍醐味をしっかり味わうためにも、読む順番を守ったほうがよいものは、そのことを含めて書いています。
辻村深月さんのおすすめ小説13冊
辻村深月さんの作品は多数あり、どれも魅力的な作品ばかり。
その中でも、特におすすめの小説を、読む順番が重要な6冊と、いつ読んでも楽しめる7冊に分けて、合計12冊ご紹介します。
後半では、いちばん最初に読むならコレ!という1冊もご紹介していきます。
ひとつひとつ紹介していくよ!
読む順番が重要!辻村深月のおすすめ小説
読む順番を意識した方がいいのは、辻村深月さんの初期の作品がほとんど。
関連が複雑なものもあるので、可能な限り、間を空けずに読んでほしいところです。
1.「凍りのくじら」辻村深月
理帆子は、読書家で頭が良くて、どこか冷めている高校生。
「ドラえもん」を愛し、藤子・F・不二雄を敬愛する理帆子は、SFが「すこし・ふしぎ」であるという言葉になぞらえて、自分や周りの人を「すこし・○○」で表現します。
理帆子は、どこにでも入っていけるけど、誰とも共感できない「すこし・不在」。
日常に息苦しさを感じ、周囲に溶け込めない自分にちょっとした優越感もありました。
なのに、「写真のモデルになってほしい」と頼んできた青年・別所には、なぜかなんでも話せてしまう…。
ドラえもんのように便利な道具はなくても、人は間違えたり絶望したりしながら、大人になっていくのです。
散りばめられた伏線が、最後にキレイにまとまるところは爽快です。
読み終わったあと、すぐ最初から読み直したくなったよ!
理帆子は「スロウハイツの神様」にも登場するし、郁也とふみちゃんは「ぼくのメジャースプーン」につながっています。
2.「スロウハイツの神様」辻村深月
「スロウハイツ」という古いアパートで共同生活する、作家や芸術家(タマゴ含む)たちの青春物語。
かつて、手塚治虫や藤子不二雄たちが共同生活をして切磋琢磨した、トキワ荘をモチーフにしています。
オーナーの赤羽環は、脚本家として成功していますが、住人では有名作家のチヨダコーキだけが飛び抜けている状態。
ほかのタマゴたちは、それぞれに弱点やこだわりや葛藤を抱えながら、夢の実現に向けて、歩んでいる最中です。
みんなクリエイターだから、頑固だし、譲れないこともあるよね。
自分には才能がないのか、どうしてかなわないんだろう…嫉妬したり、醜い感情と向き合うことも。
夢を追いかけるのって、キレイ事だけじゃない。
ひとりひとりの成長がまぶしくて、ときにぶつかりあう彼らが輝いていて、スロウハイツの全員を好きになってしまう魔法の小説。
だけど、いくら楽しくて居心地がよくても、前に進み続けるかぎり、このままじゃいられない…それも宿命。
期間限定だからこそ、青春なのかもね。
後半では、「凍りのくじら」の理帆子も登場します。
環はちょくちょく他の作品に登場しますし、チヨダコーキのデビュー作という設定の「V.T.R.」も刊行されており、スロウハイツの神様を中心に辻村深月ワールドが広がりますよ。
3.「冷たい校舎の時は止まる」辻村深月
辻村深月さんのデビュー作です。
まず、作者と同じ「辻村深月」という名前の主人公にびっくり。
往年のミステリー作家さんたちも、こういう手法の人が多かったらしくて、それを模したんだって。
受験を目前に控えた高校3年生の冬、辻村深月をはじめ、同じクラスのメンバー8人は、他に誰もいない校舎に閉じ込められます。
2ヶ月前、この学校の屋上から、飛び降り自殺した生徒がいました。
でも、誰もその子の顔も名前も思い出せない…違和感を覚えた彼らは、「どうやら、ここは誰かの精神世界らしい」と考え、外へ出る手段を探します。
ひとり足りない集合写真、ひとりずつ消えていくメンバー、5時53分で止まった時計。
担任の榊の姿が見当たらず、いったい誰がここのホストなのか?と謎が深まります。
ここまで存在感があるのに、まさか無関係なんてことないよね。
「ん?」と思うシーンが何度かありながら、ラストでキレイに種明かしされます。
伏線が回収されていくさまが鮮やかで、最後には彼らひとりひとりの幸せを願わずにはいられません。
4.「子どもたちは夜と遊ぶ」辻村深月
謎の人物「i」は、木村浅葱(あさぎ)の生き別れの兄であることをほのめかし、残忍な殺人ゲームに誘います。
浅葱は、姿の見えない「i」に会うために、ゲームの提案に乗りますが、徐々にエスカレートし、殺人のターゲットは友人にまで及びます。
浅葱は精神的に闇を抱えていて、どんどん後戻りできなくなっていくよ…。
兄に会うためには、また人を殺さなくてはならない…その繰り返しから、さらなる悲劇が起こります。
残酷なシーンが多いので、好き嫌いは分かれますが、一筋の光が差し込むような結末は救いがありますよ。
5.「ぼくのメジャースプーン」辻村深月
小学四年生の「ぼく」と、友達のふみちゃんが主人公です。
「凍りのくじら」で登場したふみちゃんだよ。
ふみちゃんは、物知りで口が達者で、クラスメイトの子どもっぽい振る舞いを許す、大人びた女の子。
ですが、大切にしていたうさぎが惨殺される事件があってから、心を閉ざし、言葉を失ってしまいます。
どうしてそんなことを…愉快犯なの?
ぼくは、相手を縛る言葉の力を持っていました。
犯人と会うチャンスを作り、言葉の力を使って、心の底から反省させようとする…ぼくの戦いであると同時に、ピュアな愛の物語。
哲学的な香りと、ファンタジー要素が絶妙にマッチした傑作です。
「子どもたちは夜と遊ぶ」の秋山先生や月子が登場するなど、深く関連しています。
6.「名前探しの放課後」辻村深月
依田いつかは、クラスメートの誰かが自殺した記憶を持ったまま、タイムスリップして時間を遡ってしまいました。
誰かって…そこが重要なのに、思い出せないんだね。誰なんだろう?
期間は3ヶ月。その間に、自殺したクラスメートが誰なのかを突き止め、回避しなくてはなりません。
いつかは、友人たちに相談し、鉄道オタクで暗そうな河野基がターゲットと目星をつけ、接触をはじめます。
よく考えたら、河野には失礼な話だよね。
ストーリーが進むにつれ、徐々に大きくなる違和感。
実は、最初からこの物語には大きなトリックが仕掛けられていたのです。
初めて読んだときに、思わず「最初からそうだったんだね」って言っちゃったよ。
あとから読み返すと、みんな結構ボロが出てるというか、いろんな意味に取れる言葉を使っているんです…!
詳しくは言及できないけれど…最後は、みんなの行動に、思いに、感動します。
内容が密接に関係しているので、絶対に「ぼくのメジャースプーン」を先に読んでほしいです。
もし、この順番で読んで気に入ったら、さらに「ロードムービー」「光待つ場所へ」も続けて読むのがおすすめ。
同じ世界観をさらに深めることができますよ。
いつ読んでも楽しめる!辻村深月のおすすめ小説
辻村深月さんの作品の中から、どこから読んでも楽しめるものをご紹介します。
まだ辻村深月作品を読んだことがなくて、順番とか気にせずとりあえず1冊読みたい!という方にもピッタリですよ。
「ツナグ」辻村深月
「ツナグ」と呼ばれる使者は、生きている人間の依頼を受け、死んだ人間と会わせることができる能力があります。
だけど、会わせられるのは、生きてる人も死んだ人も一回ずつだけ!
そういう決まりなんだね。
死者からは依頼することができず、待つことしかできません。
心があたたかくなったり、罪を晴らしたり、罪を背負ったり、前に進めるようになったり、一生後悔を抱えたり…。
「ツナグ」を通じて、生と死にまつわるいろいろな物事を考えさせられます。
特に、依頼者の目線で語られる4章と、「使者」の少年・歩美目線で語られる最終章が秀逸。
3時間ほどで一気読みできちゃうボリュームで、読んだあとは驚くほど心がすっきり!
2012年頃に読んだのですが、その年のいちばん読んでよかった1冊になりました。
「かがみの孤城」辻村深月【本屋大賞受賞】
安西こころは、中学1年生で、不登校になってしまいます。
誰も信じられず閉じこもっていたある日、部屋にあった鏡が光り、別の世界への扉が開きます…。
そこには、「オオカミさま」がいて、こころと同じく不登校の子どもたちが集まっていました。
オオカミさまは、この城には「願いの部屋」があり、その部屋の鍵を見つけた一人だけが、扉を開けて願いを叶える権利があるといいます。
何のために? なぜ自分たちが?
さまざまな疑問を抱えながら、不思議なお城へ通う日々が始まりました。
ありえないシチュエーションだけど、ただのファンタジーじゃないんだよ。
我が子も、中学1年生の夏休み明けから、学校に行けなくなりました。
人間関係に傷つき、悩んだことのある人には、より一層思い入れが深まる作品です。
「島はぼくらと」辻村深月
瀬戸内海に浮かぶ島で暮らす、4人の高校生たち。
島には高校がないため、島の子どもたちは、高校生になるとフェリーで本土に通います。
そして、多くの人は、高校卒業とともに島を出ていき、戻ってくる人はほとんどいません。
寂しいけれど、現実的には働いて生きていかなくちゃならないもんね。
島への移住に憧れる都会人もいますが、少子化、過疎化、医師不足など、根深い問題を抱えています。
淡い恋心や、ちょっとした事件。
青春のきらめきを閉じ込めて、一緒に過ごせる最後の季節を描きます。
ふるさとを離れた方におすすめの青春小説です。
「朝が来る」辻村深月【ドラマ化】
不妊治療を重ねても、子どもを授からなかった栗原夫妻。
ふたりは、特別養子縁組を仲介する民間団体「ベビーバトン」に登録し、生まれたばかりの朝斗を養子にします。
血のつながりはなくても、幸せな親子として暮らしていたよ。
朝斗が6歳になったある日、朝斗の生みの母親から「子どもを返してほしい。それが無理ならお金を払ってほしい」と電話が…!
彼女は、自分自身の親とうまくいっていない中、中学生で妊娠して、出産後間もなく子ども(朝斗)を手放したのです。
未熟で愚かな選択だったかもしれないけれど、彼女の母への鬱屈を思いやると、そう断罪できない部分もあります。
かわいそうだけど…でも、朝斗はもう栗原家の子どもだもん。今さら返すことなんてできないよ。
いろんな姿の母親像があり、誰もが自分の正義で動いていて、正しさはひとつじゃない。
どんな人生を選んでも、いつかは朝が来ますように、と願うばかりです。
「青空と逃げる」辻村深月
母と子の日常は、1本の電話でガラガラと崩れ去りました。
劇団員の父・拳(けん)が、共演していた女優と深夜にドライブしていて、交通事故にあったのです。
もしかして不倫…?と疑惑が高まる中、拳は、妻の早苗に黙って勝手に退院してしまい、行方不明に。
ますます怪しい…!
女優が所属していた事務所はガラの悪い追手を使って、拳の居場所を探ろうとします。
早苗と、小学校5年生の力(ちから)は、彼らから逃げる形で、日本各地を転々とする逃避行へ。
早苗と力は、まったく悪いことしていないのに、理不尽だよね。
なぜ拳は姿を消したのか…その謎が徐々に明かされていき、目が離せません。
四万十や家島、別府など、各地の風光明媚な描写も美しく、ただ理不尽なだけではないのが見どころ。
不本意な逃亡生活の末に、母と子はどんな答えを出したのでしょうか?
「傲慢と善良」辻村深月
架(かける)と真美(まみ)は、婚活アプリで出会いました。
真美が、ストーカーにつけられていたのをきっかけに、架は「守ってあげなくてはいけない」と結婚を決意。
ふたりが同棲し、もうすぐ結婚という矢先、真美は突然姿を消してしまいます。
大変だ…!
警察には、「事件性がない」「誘拐ではない可能性がある」と言われ、架は混乱します。
果たして真美は無事に見つかるのでしょうか…?
もしかしたら、真美は架との結婚に迷って、自分からいなくなったのかも…?
学生時代の友人や、職場恋愛など、自然な出会いから結婚したい。
でも、一方で、年齢や周囲の圧力など、刻々と迫るタイムリミット。
結婚しなくても生きていけるけれど、認められたいし、受け入れられたいし、誰かと一緒に生きていきたい。
婚活アプリや結婚相談所にも出会いを求めますが、テンプレ的なやり取りや駆け引きに、疲れを感じることも…。
だけど、条件から始まる関係性でも、結局人と人の関係は、生身のぶつかり合いで発展するのです。
出会い方が変わっても、人間はちっとも変わっていないのかもしれません。
「家族シアター」辻村深月
家族とは、距離が近いからこそ救いになる一方で、ときにやっかいなもの。
ただ支え合えるだけでなく、ぶつかり合い、葛藤することも…。
大好きだけど、大っきらい。
その気持ち、なんとなくわかるよ…。
めんどくさいけど、あたたかくて、ぶつかりあうけど、離れたくない。
そんな家族を描いた、7つのお話を収録した短編集です。
特に最後に載っている「タマシイム・マシンの永遠」は秀逸。
辻村深月作品最初の1冊は「凍りのくじら」「かがみの孤城」「ツナグ」
辻村深月さんの作品を初めて読む人に、1冊だけおすすめするとしたら、この3冊のどれか。
1冊に絞れてないじゃん!
だって、どれもおすすめで選びきれないんだもん…!
普段の読書傾向によりますが、どちらかというと論理的で現実志向なら「凍りのくじら」がおすすめ。
異世界ものやゲーム、ファンタジーが好きなら「かがみの孤城」が刺さるはず。
「ツナグ」は生と死という普遍的なテーマで、映画化されていることもあり、万人受けはバツグン。
この3冊なら、最低でもどれか1冊は、あなたの琴線に触れる作品がきっとあります。
1冊読み終わる頃には、他の作品も読んでみたくなっているはず!
辻村深月作品を読んで、自分の感情に名前をつけよう
辻村深月さんは、これまで言葉にできずしまいこんでいた感情を、ピタリと言い表してくれます。
モヤモヤしていても、うまく明文化できなくて、スルーしてしまっていた感情たち。
登場人物たちに気持ちを重ねることは、自分自身を振り返るきっかけになります。
ぜひ、辻村深月さんの魅力にハマってくださいね。
関連記事
辻村深月さんの作品でも、家族との関係性や、夫婦・親子について書かれています。
そんな「家族」をテーマにした小説をご紹介したまとめ記事です。
本を読みたいけれど、かさばるから持ち運びにくい、置く場所がない…とお悩みの方には「Kindle」がおすすめ。
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