辻村深月の衝撃的なデビュー作にして、名刺代わりになった作品。
自殺したクラスメイトが誰なのかを探す、少しホラー要素のある学園ミステリーをご紹介します。
第31回メフィスト賞を受賞して、鮮烈な印象を残しました。
上下巻で、それぞれ約600ページもあるため、一見とっつきにくいかもしれません。
ですが、辻村深月作品の源を語るには、欠かせない作品です。
パズルのピースがパチパチとはまっていくような、ゾクゾクする感覚を味わえますよ。
この記事ではネタバレなしで「冷たい校舎の時は止まる」を解説するよ!
「冷たい校舎の時は止まる」辻村深月|登場人物
登場人物は、3年2組の学級委員たちと、若き担任教師。
受験を目前にした冬の季節、突然ストーリーは始まります。
- 深月…主人公。精神的に弱くネガティブな面があり、女友達とのトラブルで追い詰められていた過去がある。
- 鷹野…クラスの委員長。マイペースな秀才。深月とは幼なじみ。
- 昭彦…感情を出さず、事実を冷静に受け止めるタイプだが、いじめに関しては許さない。
- 梨香…ギャルっぽい茶髪女子。家庭に問題があるが、榊くんに救われて立ち直る。親が離婚していて、妹がふたりいる。
- 菅原…タバコや麻雀、パチンコなどあらゆる悪事に手を染める、素行が悪い生徒。停学明けで久しぶりに登校。
- 景子…男っぽいしゃべり方、サバサバした性格で、女子のファンが多い。梨香と幼なじみ。
- 充…弱気だけど優しくて善良な男子。梨香のことが好き。
- 清水…特待生で入学し、成績トップ。美術部で絵が上手く、完璧な優等生。
- 榊…3年2組の担任教師。茶髪にピアス、ホストのような見た目。鷹野とは従兄弟で、生徒たちに友達のように慕われている。
メインの登場人物8人を、ひとりひとり掘り下げてストーリーが進むため、かなり長い作品になっています。
主人公と著者の名前が同じ「辻村深月」
「冷たい校舎の時は止まる」の主人公は、作者と同じ「辻村深月」という名前。
初めて読んだときはびっくりしたよ!
往年のミステリー作家も、主人公に作者の名前をつける方が多く、その手法をオマージュしたのです。
なによりも、知名度がまだあまりない作家が、名前を覚えてもらうのに最適。
インパクトは絶大だもんね。
今や、辻村深月さんは、作品の登場人物の名前にしなくても、誰もが知っているくらい有名作家になりました。
名実ともに、「この作品が名刺代わりです」とアピールする結果になったのは、まるで未来が見えていたようで、すこし怖いくらいですね。
「冷たい校舎の時は止まる」辻村深月|あらすじと内容
受験を目前に控えた高校3年生の冬、辻村深月をはじめ、同じクラスのメンバー8人は、他に誰もいない校舎に閉じ込められます。
2ヶ月前、この学校の屋上から、飛び降り自殺した生徒がいました。
でも、誰も、その子の顔も名前も思い出せません。
ひとり足りない集合写真、ひとりずつ消えていくメンバー、5時53分で止まった時計。
違和感を覚えた彼らは、「どうやら、ここは誰かの精神世界らしい」と考え、外へ出る手段を探します。
担任の榊の姿が見当たらず、いったい誰がここのホストなのか?と謎が深まります。
ここまで存在感があるのに、まさか無関係なんてことないよね。
「ん?」と思うシーンが何度かありながら、ラストでキレイに種明かしされます。
気になる人はぜひ作品を読んでね。
どことなく感じてきた不気味な違和感に、言葉やカタチが与えられ、真相に迫っていくのです。
伏線が回収されていくさまが鮮やかで、最後には彼らひとりひとりの幸せを願わずにはいられません。
学校という狭い世界のすべてが突き刺さる
学生時代、学校は世界のすべてで、自分の価値をはかるステージだと感じていました。
私にとっては、ずっと昔だけど、辻村深月さんの作品を読むと、なんだか今のことみたいに突き刺さるよ。
成績のような目に見える指標じゃなく、もっと抽象的な、数値化できないものこそが、輝いていました。
親しい友人がたくさんいるとか、クラスの中で重要なポジションだとか、先生の信頼が厚いリーダー格とか、委員や部活で目覚ましい活躍を見せているとか…。
大人から見たら、ちっぽけな世界の、ほんの少しの背くらべ。
だけど、高校時代、学校での存在感は絶対でした。
いじめや無視など、存在を脅かされることが起こると、途端に息ができなくなっちゃうんです。
ここで自殺した子も、きっとそうだったのかな…。
メインの登場人物全員にスポットライトが当たる
学校には、いろんなクラスメイトがいます。
性格、学力、家庭環境、長所・短所…全部ごちゃまぜで、同じ学校の同じ学年、クラスというつながりだけを頼りに、一緒にときを過ごす。
人生の中でも、これほど濃く深い人間関係を築く時期って、他にないかも…。
交友関係が自由な大人だったら、一生友達にならなかったような人同士も、学校には共存しています。
ときには、どうしても共存できなくて、いじめとか起こることもあるけどね…。
主人公の辻村深月ひとりにフォーカスするのではなく、全員にスポットライトを当てることには、意味があります。
読者の私たちも、考え方や性格はそれぞれ。
だからこそ、ひとりひとりのバックボーンを知ることで、物語に入り込むことができます。
8人のうち、自分がいちばん感情移入できる人物を知り、より自分に置き換えて考えられるのです。
「冷たい校舎の時は止まる」辻村深月|まとめ
「冷たい校舎の時は止まる」は、辻村深月さんの鮮烈なデビュー作です。
結末までの鮮やかなストーリー展開、高校生たちの繊細な感情表現、学生時代ならではの独特のヒエラルキー。
どれをとっても、辻村深月さんのその後の作品の大きな特徴を表しています。
荒削りな部分もあるんだけど、そのぶん尖っていて鋭いんだよね。
辻村深月ファンは、一度はきっと「どうしてこんなに私の気持ちがわかるの?」と驚くのです。
特に、人間関係に悩む中学生・高校生には突き刺さるはずですよ。
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