部活中の生徒もたくさんいたのに、密室…。
体育館という、学校内で起こった殺人事件に立ち向かう、風変わりな高校生探偵のお話をご紹介します。
ライトノベル調なのに、トリックは古典的。
高校という現実的な舞台なのに、登場人物はぶっ飛んでいる。
頭がいいのはわかるけど、ちょっと変人すぎて理解できない!
そんなギャップが味わえる、本格的な学園ミステリーです。
「体育館の殺人」を解説するよ!
「体育館の殺人」青崎有吾|登場人物
「体育館の殺人」は、風ヶ丘高校の生徒が数多く登場します。
中でも、メインの3人はこちら。
袴田柚乃 …1年生の卓球部員。部長の容疑を晴らすために、裏染の力を借りる。裏染天馬 …2年生。アニメオタクで駄目人間だが、テストで全教科満点を取った天才。学校にこっそり住み着いている。向坂香織 …2年生。新聞部部長。裏染とは幼馴染。
探偵役の裏染天馬は、頭がいいのにかなり変人で、際立った個性を放っています。
私はアニメあんまり詳しくないから、裏染のオタクセリフ、全然何言ってるかわからなかったよ。
でも、周りの人もわかってないから大丈夫だよ。
他の登場人物は、いい意味でも悪い意味でも無個性で、モブキャラという印象。
トリックに集中するために、あえてなのかもしれません。
感情や性格が見えにくいせいか、みんながみんな怪しく思えてくるのです。
「体育館の殺人」青崎有吾|あらすじと内容
風ヶ丘高校の旧体育館で、殺人事件が起こりました。
放送部の部長・朝島が、何者かに刺殺されたのです。
なんで!? いったい誰がこんなことを…。
当日は、激しい雨が降っていて、物音が周囲に聞こえにくい上、殺人現場になった舞台裏は、密室状態だったのです。
警察の取り調べの結果、その日、2年D組だけは早めに授業が終わっていました。
そこで、体育館で唯一アリバイのない時間があった、卓球部の部長、佐川奈緒の犯行と決めつけられます。
だけど、動機もないし、他にも解決されていない不審な点があるんだ。
殺人事件現場に居合わせた柚乃は、「佐川さんはそんなことする人じゃない」と、部長の容疑を晴らそうとします。
だけど、柚乃の力だけでは、何もできない…。
そこで、生徒会副会長の千鶴から「協力してくれそうな人がいる」と、裏染天馬のことを聞きます。
裏染は、中間テストで全教科満点という脅威の成績を取った天才、だけどアニメオタクで、かなり変人。
なぜか校内に住んでいるのも謎だよね…。
この人、大丈夫なの?と不安になったのもつかの間、裏染天馬は警察をそっちのけで、怒涛の推理を始めるのです。
「体育館の殺人」は、感情よりも、トリックとロジック
高校が舞台ではありますが、高校生の青春や、笑って泣いて…という感情とはかけ離れています。
なんていうか…人が死んでるっていうのに、みんな落ち着きすぎなんだよね。
警察の聞き込みにも、ハキハキと答えて、聞いてもいないのに「アリバイならありますよ」などと情報をしゃべって…。
動揺したり、すぐバレる嘘をついたりする子、そんなにいないんです(厳密に言うと、いるといえばいるけど)。
みんな刑事ドラマの見すぎじゃない?
あまりにも手際よく、駒のように動いてくれるので、かえって全員怪しい気がします。
唯一、放送部員だけは、「朝島部長が殺されるなんて…」と悲しんでいますが、それさえも犯人のお芝居ではないかと思ってしまうくらい。
感傷に浸ったり、トラウマに苛まれたり、人間らしい感情を表現する人はほとんどいません。
純粋に、ミステリーならではのアリバイを検証したり、トリックを考察することに専念した作品です。
「体育館の殺人」には、読者への挑戦状つき
古典的なミステリー作品には「読者への挑戦」がつきもの。
真相が解明される章の前に挿入されるもので、いきなり作品中と文体が変わって、作者の視点から語られます。
「さあ、すべての手がかりは出揃いました。あなたには犯人がわかりましたか?この謎を解いてごらんなさい」というような趣旨。
私は古典ミステリーをあまり読んでこなかったから、唐突に口調が変わってびっくりしたよ。
つまり、作者 VS 読者という、俯瞰的なステージの戦い。
小説の登場人物になりきって、感情移入するのとは別次元なのです。
ただし、この「読者への挑戦状」を成立させるには、ここまでにすべての事実を開示している必要があります。
つまり、このあとのページに、作品中どこを読んでも分かるはずのない情報があってはいけないのです。
「読者への挑戦状」を叩きつけるには、足元をすくわれるようなロジックではダメだということ。
それに、小説の世界に没頭しているときに、「作者」という現実の存在を登場させることは、賛否両論あります。
現実に引き戻されるっていうか、ルール的にどうなの?っていうのは、分かる気がする。
著者の青崎有吾さんは、古典的ミステリーを愛し、「読者への挑戦状」をオマージュしているのですね。
青崎有吾さんは、トリッキーな若手ミステリー作家
「体育館の殺人」の著者、青崎有吾さんは、1991年生まれの若い作家さん。
2012年、大学在学中に、本作「体育館の殺人」で第22回鮎川哲也賞を受賞し、デビューしました。
往年のミステリー作家、エラリー・クイーンのようなロジカルなストーリー展開で、「平成のエラリー・クイーン」と評されています。
その後も、トリックを駆使したミステリーや、日常の謎といった謎解きジャンルの小説が得意。
「体育館の殺人」の探偵、「裏染天馬シリーズ」をはじめ、意欲的に作品を発表されています。
「体育館の殺人」青崎有吾|まとめ
「体育館の殺人」は、アニメオタクで変わり者の高校生探偵が、警察も顔負けの推理を展開します。
誰も文句がつけられないほど、テクニカルなロジックで、読んでいてスカっとする作品。
プロの警察官も黙り込むしかないなんて、裏染天馬、ちょっとかっこよく見えちゃうかも!
アニメオタクだから、きっと生身の女子は相手にしないんだろうけどね。
その代わり、人が死んだ悲しみなど、情緒の面はほとんど描写されていません。
純粋に、トリックやアリバイを楽しむための作品と言えるでしょう。
本格ミステリーが好きな方は、きっと楽しめる作品です。
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