普通の母親、普通の子ども…「良い」とされる価値観に添うことが求められる属性。
そんな世の中の当たり前に、ちょっとした反抗心を抱く人におすすめの作品をご紹介します。
椿は、出ていってしまった妹の子ども、朔と一緒に暮らしています。
母子でもないのに、普通…じゃないよね。
決して嫌々面倒を見ているわけでもないし、朔のことを大切に思う気持ちは確かなもの。
だけど、周りの人には、椿の行動は献身的に思えるようで、いろいろなことを言われます。
理屈に合わない、古い「常識」に縛られるのは、わたしたちの時代で終わりにしたい。
「わたしの良い子」を解説するよ!
「わたしの良い子」寺地はるな|登場人物
「わたしの良い子」の登場人物をご紹介します。
- 小山椿…独身のOL。出奔した妹の子ども、朔と暮らしている。
- 朔…椿の妹、鈴菜の子ども。父親は不明。小学生になったが、文字の読み書きが苦手。
- 鈴菜…未婚で朔を出産したあと、朔を置いて出ていった。沖縄で彼氏と暮らしている。
- 高雄…椿の恋人。転勤で関西にいるため、遠距離恋愛。
- 静原…椿の昔の同級生。たまたま娘の愛結が朔と同じ保育園・小学校だった。
朔は、マイペースで自分の世界を持っていて、みんなと同じ行動ができない、いわゆる育てにくい子。
はっきりとは書かれていないけれど、発達障害っぽい感じ。
うちの長男の小学生の頃にそっくりだよ…文字の読み書きがなかなかできないところとか。
椿は、朔に対して「どうして他の子みたいにできないの?」とイライラしてしまいます…そんな気持ちが痛いほどわかる。
だけど、理性的な椿は、きちんと落ち着いて朔と向き合っていくのです。
「わたしの良い子」寺地はるな|あらすじ・内容
椿は、妹の子どもの朔と二人暮らし。
朝は朔を保育園に送ってから出勤して、定時に退勤してお迎えへ。
他人から見たら、まるで椿が、朔をひとりで産んで育てているシングルマザーのように見えるでしょう。
偶然、保育園で再会した静原にも、最初はそう思われたしね…。
だけど、朔は、椿の妹の鈴菜の子ども。
実の母親であるはずの鈴菜は、アートを教えている男性とともに沖縄にいます。
鈴菜からは、月に一度は電話がかかってきて、生活費を振り込んできます。
いつかは沖縄に朔を呼び寄せるつもりだと言いますが、そのときがいつか来るのか、ずっと来ないのかわからないまま、今に至る…。
朔の気持ちや希望は、どうなんだろ?なんだか置いてけぼりな感じだよね。
「わたしの良い子」寺地はるな|母親の代わりなのかという葛藤
椿は、朔を出産したわけではないけれど、小さい頃からお世話をして、一緒に暮らして…ほとんど母親と同じようなことをしています。
だけど、「自分はしょせん母親の代用品なのか」という思いが消えません。
自分と朔だけだったら、そんな風に思わないけど…そう思っちゃうのは周りの人の反応が原因だよね。
たとえば、朔が保育園でみんなと同じようにダンスを踊れなくて、先生に「やっぱり、さびしいんでしょうか」と言われたとき。
父親が、「椿も自分の家庭を持ちたいだろう」と気を遣って、朔を引き取ろうかと打診してきたとき。
アパートの大家さんに「小山さん、朔ちゃんに自分のこと『おばちゃん』って呼ばせてるの?」と言われたとき。
母親に成り代わるつもりなんてないから、『おばちゃん』って呼んでもらってたけど…それはそれでこんな風に言われちゃうんだね。
高雄とは長い間遠距離恋愛しているのに、未だ結婚しない椿。
だけど、それは朔のせいじゃないし「自分の人生を犠牲にしてる」なんて言われたくない。
母親じゃないけれど、朔のかけがえのない存在であることは間違いないのです。
「わたしの良い子」寺地はるな|母親の役割ってなんだろう?
鈴菜を責める人はたくさんいるでしょう。
母親なのに情けない、無責任だ、男にうつつを抜かしている、子どもを放置して罪悪感はないのか…。
だけど、不器用で、愛を信じられなくて、不安で…こうなってしまったのは、誰のせいでもありません。
むしろ、鈴菜に逃げ道があって、朔の面倒を見てくれる椿や父親がいてよかった。
子どもを育てたことがある人は、きっと、この作品を読んで、鈴菜だけを責めることなんてできないはず。
鈴菜に「信じられない!」って言える人は、よっぽど自信があるんだろうね…って私は思っちゃう。
それか、よっぽど育てやすい子だったのか…?
朔は、たしかにちょっと育てにくい子かもしれないけれど、誰しもそんな部分はあるはず。
子育てって、唯一の正解がどこかにあるわけではなくて、その都度考えながら最善と思われる手段を選んでいくしかないのです。
「こうしたらこう育つ」なんて明確なルールがあるわけじゃない。子どもと相対する時は、いつだって手さぐりだ。
「わたしの良い子」寺地はるな|まとめ
良い子って、いったいなんなんだろうね…。
「わたしの良い子」は、「こうあらなければならない」というルールから解放してくれる力があります。
世間一般で言われる、優等生的な「良い子」じゃなくてもいいんじゃないか。
親の言うことを聞く、素直で賢い「良い子」なんて、きっと幻想でしかない。
良い母親、良い子どもが、言いたいことも言えないで我慢した結果だとしたら、きっとどこかでほころびが出るはず。
誰かと比べなくても、自分なりの子育てでいいじゃない…と、優しく許してくれます。
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寺地はるなさんの作品は、いつも旧式の固定概念を覆してくれます。
誰もが生きづらさから解き放たれて、ありのままでいられる社会になれるといいな。
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