どうしてこうなってしまったんだろう…?
自分の人生を悔やんでも、もう今さらどうしようもなくて、すべてを投げ捨てて逃げ出したくなる。
そういうこと、誰にだってあるかもしれないね…。
駆け落ち、逃亡、雲隠れ。人生に行き詰まった人たちが流れ着く、ひとときの住まいをめぐる連作短編集をご紹介します。
どの物語も、普通とはすこし違った道を選んできてしまった人たち。
だけど、私たちの前に広がる無数の選択肢から、彼らと同じような道を歩む可能性を想像すると…なんともいたたまれない気持ちになるのです。
「さいはての家」を解説するよ!
「さいはての家」彩瀬まる|あらすじ・内容
「さいはての家」は、ひとつの家を舞台にした物語。
登場人物たちは、入れ代わり立ち代わりこの家にやってきて、人生のうちのほんのひととき住み、またいなくなります。
- はねつき…家族を捨てて逃げた男と行きつけバーの雇われママ
- ゆすらうめ…逃亡中の殺し屋とタクシー運転手の元同級生
- ひかり…殺人事件を起こした新興宗教の元教祖
- ままごと…親が決めた結婚から逃げた女とその妹
- かざあな…子育てに馴染めず、仕事を言い訳に家を出た男
この世のどこへ逃げても、終わりになんてできない。この世から救われたくて、すがりついてしまう。
古い家なのに、借り手が途切れなくて、いろんなものから逃げてきた人たちが引き寄せられる…登場人物たちの避難所のような家なのです。
「さいはての家」彩瀬まる|はねつき
つるちゃんは、小さな飲み屋の雇われママでした。
実家に恵まれず、働き始めてからも搾取され、それでも抵抗する術を知らずに生きてきました。
お店の常連だった野田さんと、夜逃げするまでは。
野田さんは自分が経営するお店も、奥さんや娘も捨ててきちゃったんだね…。
つるちゃんはホームセンターで働き、野田さんは家庭菜園をして、絵に描いたような幸せな田舎暮らし。
だけど、そんな日々はあっという間に終わりを告げます…。
「さいはての家」彩瀬まる|ゆすらうめ
塚本は、これまで詐欺や殺人などさまざまな罪に手を染めてきたヤクザ。
仕事をしくじって組織から抹殺されるかというとき、たまたま乗り込んだタクシーの運転手が、小学校の同級生の清吾でした。
清吾の母親は若年性認知症で老人ホームに入居していて、その施設の隣の家に引っ越す清吾についていきます。
男の人ふたりって珍しい組み合わせだね。
人を騙して生きてきた塚本は、ここでも罪を重ねますが…清吾と母親との関わりで、すこしずつ人間らしくなっていきます。
清吾はなんでここまでしてくれるのか…という謎も最後には解けるよ。
「さいはての家」彩瀬まる|ひかり
杣鳥美智子は、かつて殺人事件を起こした新興宗教の教祖でした。
見た目は普通のおばあちゃんみたいだけど…意外だね。
事件以降、残った信徒たちとともに転々とし、すこしずつ人数が減り、団体は力を失っていきました。
とうとう杣鳥ひとりだけになりましたが、儀式で死んでしまったはずのゆりは、今もまだそばにいる…。
産後の女性を対象にした「健康教室」で生計を立てています。
だんだん自分の名前がわからなくなり、隣の老人ホームの男性の幻覚を見るなど、様子がおかしくなってくるのがリアルで怖い。
なんだか寂しい最後だよね…。
「さいはての家」彩瀬まる|ままごと
幼い頃からのんびりしていて、親が決めたルートを歩んでいた姉の満が、親が選んだ結婚相手から逃げ出す形で一人暮らしをはじめました。
結婚相手が嫌だったとか…でもないみたいだね。
妹の朔は、世間知らずの姉を心配して、身の回りの世話をしに通いますが…彼氏の束縛に嫌気が差して、ストーカーまがいの行動に出たことをきっかけに、姉の家に身を寄せます。
隣の老人ホームで栄養士として働き、自立した生活をするようになって、まるで別人みたいにしっかりした満。
一方、朔は、久しぶりに顔を出した実家で、姉の結婚相手になる予定だった人と引き合わせられます。
姉がダメなら妹…って、あまりにも本人たちの意思を尊重しなさすぎじゃない!?
父親は優れた経営者で、自分は満と違ってしっかり将来のことを考えていて、能力があるから、父にも自分の道を歩むことを認められている…
朔はそう思っていたけど、実は父は女を人間として扱っていなかった。
女という、人間よりもいくらか手軽で、うまく躾をして活用するべき別の生き物
裏切られた思いの朔は、これからどんな道を選ぶでしょうか?
「さいはての家」彩瀬まる|かざあな
平野は、子会社に出向になって単身赴任をすることになり、この家に移り住みます。
ですが、本心は子育てから脱出することができてほっとしている…子どもがいるとこんなにも自由でいられないのかと、うんざりしていたから。
そりゃそうだけど、ひとりで仕事しながら子育てもする奥さんの立場を考えると…無責任に感じちゃう。
それも正しいけど、育児から逃げて仕事だけだったらラクだなって思うのもわかるよね。
慣れない子会社の雰囲気や、企業独自のコミュニケーションに疲れ、想定外の事件にも巻き込まれ…
平野は追い詰められ、妻からの連絡を絶ち、すこしずつ精神に異常をきたします。
そんなとき、大家さんに、これまでここに住んだ人たちの話を聞かされました。
行き詰まって逃げた人たちなんて、本当はたくさんいる。ちゃんと逃げて生き延びた自分を褒めなよ。
「さいはての家」は、きっとのもっとも
「さいはての家」彩瀬まる|この家に住んだ順番
この家に住んだ順番って、お話の順番とは違うのかな…!?
「さいはての家」は、連作短編集ですが、お話の並び順は時系列ではありません。
つまり、「はねつき」に出てきた不倫カップルは、最初の住人ではないということ。
では、この中でいったい誰が最初の住人かというと、最終章「かざあな」の大家さんの言葉がヒントになります。
「一番驚いたのは、六……いや、もう七年も前かね、杣鳥さんっていう小さくて品のいい婆さんがいてさ。その人は、過去に死体遺棄事件を起こした宗教団体の元教祖だった。いやー人当たりも柔らかいし、言葉も丁寧だし、まあ最後の方はちょっとボケたかなくらいは思ったけども、全然そんな人だって気づかなった。その次は、トラブルから逃げてきたっぽいチンピラ崩れとその親族の兄ちゃん。その次は実家と揉めた姉妹……明らかにこりゃ駆け落ちだなっていう年食った男と若い女の怪しいカップルもいたな。とにかくそういう家なんだよ」
つまり、お話の順番でいうとこうなります。
ストレートに最初から読むもよし、時系列順に読むもよし、あなたなりに楽しんでくださいね。
「さいはての家」彩瀬まる|まとめ
この家には、弱った人を癒す力があるのかも?
現実から逃げることは、マイナスなイメージがつきもの。
ですが、その場にいたらつぶれてしまったかもしれなかった…。
逃げた自分を褒めてあげなよ、という大家さんの言葉は、一筋の救いになります。
鳥がひととき羽を休めるように、この家で生きる活力を養って、また世間の荒波に戻っていく。
傷ついた彼らが、どこかで元気に生活していることを願ってやみません。
彼らがこの家を出てどうなったか想像するのも楽しいね!
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