🐳「52ヘルツのくじらたち」町田そのこ
— ア (@seer1118b) August 11, 2020
誰にも届かない周波数で鳴く孤独なくじら…
この世はクソみたいな人間もたくさんいるけど
それでも、捨てたもんじゃないと思えます✨
犬が前に回り込んでアピールしてくるから
あまり頭に入ってこない😂
ちゃんと読み返そ… pic.twitter.com/nWufjZxVJE
自分が選んでひとりでいるよりも、みんなの中にいるのに誰からも求められないほうが、ずっと孤独を感じる。
美しくて悲しくて、だけど共鳴してしまう小説をご紹介します。
人目を避けるように海辺の田舎町に引っ越してきた女性が、ボロボロの服を着た髪の長い少年と出会います。
愛されたいと渇望しても、裏切られてきたふたりの、傷ついた魂。
目をそらしたくなるけれど、きちんと見届けなくてはいけないと感じさせられる小説ですよ。
「52ヘルツのクジラたち」を解説するよ!
「52ヘルツのクジラたち」町田そのこ|登場人物
「52ヘルツのクジラたち」は、大分の小さな海辺の町が舞台。
- 三島
貴瑚 (キナコ)…主人公。実母からネグレクトされ搾取されてきたが、アンさんに救われた。訳あってひとりで田舎に移住。 - 少年…母親から虐待を受け「ムシ」と呼ばれている。貴瑚のもとへ逃げ込んできた。
- 岡田安吾(アンさん)…貴瑚を実家から救い出した恩人。今はもういない。
- 牧岡美晴…貴瑚の高校時代からの友人。突然いなくなった貴瑚を探して追いかけてきた。
- 村中
眞帆 …家の修繕をお願いした業者。貴瑚のことを気にかけている。
たくさんのつらい体験をした彼らが、どんな道を選ぶのか見届けたい。
心をえぐられるような描写も多く、読みながら息を止めてしまいそうですが、救いのあるラストですよ。
「52ヘルツのクジラたち」町田そのこ|あらすじ・内容
貴瑚は、祖母が遺した大分の古家にひとり移り住みます。
なんだか、訳ありみたいだよ。
田舎だから、周囲のおばあちゃん連中の世間話の噂になって、居心地の悪い思いをしますが、家の修繕に来た村中と少しずつ親しくなり、馴染んでいきます。
そんな雨の日、貴瑚は口の聞けない少年と出会います。
薄汚れた衣服、骨が浮いた痩せた体、伸びきった髪、母親からはムシと呼ばれ…彼は明らかに虐待を受けていました。
貴瑚にも同じような体験があるから、どうしても放っておけなかったんだよね。
貴瑚は、実母に疎んじられ、母が再婚した義父との間に設けた弟と差をつけられ、食事を与えてもらえないなどネグレクトを受けていました。
成人しても、難病になった義父の介護に明け暮れ、暴力を振るわれ…。
ひどい!読んでいてつらくなるよ…。
そんなとき、美晴と再会し、同時に美晴の同僚のアンさんに出会いました。
アンさんは、貴瑚に「キナコ」とあだ名をつけ、距離感をするりと縮める不思議な人。
アンさんは、出会ってからたった5日間で、貴瑚を救ったのです。
貴瑚をこれまで軽んじておきながら、介護要員としていいように使う母親から引き離し、自立させました。
貴瑚はアンパンマンみたいって言うけど、本当にヒーローだよね!
「52ヘルツのクジラたち」町田そのこ|世界で一番孤独なクジラ
ところで、52ヘルツのクジラっていったいどういう意味?
タイトルにもなっている、52ヘルツのクジラとは、世界で一番孤独なクジラ。
クジラは、他の仲間とコミュニケーションをとるために、独特の鳴き声を使います。
一般のクジラは、10ヘルツ〜39ヘルツの周波数で歌いますが、世界で一頭だけ、52ヘルツという高い周波数で鳴くクジラがいます。
たくさんの仲間がいても、誰にも声を届けられない、ひとりぼっちの存在。
貴瑚は、実家のトイレに閉じ込められていたとき、自分の人生を搾取されていたとき、52ヘルツの声を上げていました。
「わたしも、昔52ヘルツの声をあげてた。それは長い間誰にも届かなかったけど、たったひとり、受け止めてくれるひとがいたんだよ」
わたしは、あんたの誰にも届かない52ヘルツの声を聴くよ。
少年の名前がわかるまで、「52」と呼び、彼を救い出すための手がかりを探します。
かつて、貴瑚がアンさんに救われたように。
「52ヘルツのクジラたち」町田そのこ|誰かのためなら強くなれる
貴瑚は、52少年を守ることで、自分も救われていくよ。
母親に愛されず、暴力を振るわれ、とうとうケチャップまみれで逃げ出してきた少年。
つらい経験から、言葉を失い、何にも期待せず感情をなくしていました。
貴瑚は、過去の自分の姿と重ね、なんとかして彼を救いたいと考えます。
かつて自分がしてほしかったこと、アンさんにしてもらったことを思い返しながら。
そうすることで、昔の自分を間接的に救い、生きながら死んでいた自分が息を吹き返してきたのです。
彼の意思を尊重しながら、未来がより良くなるように考えて…全部、自分ではなく彼のため。
守るべきものがあると強くなれるんだね。
「52ヘルツのクジラたち」町田そのこ|他人の声を聴ける人になりたい
美晴は、貴瑚を追いかけて大分まで来てくれたんだよ。
美晴も、両親が離婚・再婚している家庭の出身。
ですが、虐待されるようなことはなく、無事大人になり、貴瑚を支える優しさを持っています。
美晴だって、いろいろ悩みやつらいことはあったんだろうけどね。
本当なら、離婚しても片親でも、責任を持って子どもを育てるのが当たり前と言いたいところですが…
貴瑚や52少年の生い立ちを見ていると、当たり前が通用しない世界もあるのだなと痛感させられます。
物語の終盤、自分の身に起こったことをすべて話した貴瑚に、美晴がかけた言葉。
私に貴瑚の辛さの半分をちょうだい。
私には、自分を殺したくなるほど傷ついた経験も、誰かに大切にされたくて狂おしい思いをした経験もありません。
きっと、この本を読んでいる、世の中の大半の人がそうだと思うよ。
彼らの孤独を、本当の意味では理解してあげられないかもしれないけれど、美晴のように誰かの声を聴ける人でありたい。
みんなで寄り添えば、背負う罪も少し軽くなるはずだから。
「52ヘルツのクジラたち」町田そのこ|里親制度、成年後見人制度
実際には、未成年の少年が、血縁のない女性と暮らすのはいろいろと課題があります。
少年は発達障害がありそうだし、これから精神面・身体面ともにケアが必要。
学校や勉強、自立のための支援など、何の経験も知識もない貴瑚には、到底背負いきれる問題ではありません。
一緒にいたい、という感情だけじゃダメってことか…現実は厳しいね。
そんな現実の難しさにも触れられていて、きちんと決着がつけられていますよ。
「52ヘルツのクジラたち」町田そのこ|まとめ
誰かの声にならないSOS、私はちゃんと受け取れているかな…。
「52ヘルツのクジラたち」は、愛されたくて愛されなくて、傷ついた人を描いています。
当事者はもちろん、周囲にいるその他大勢の私たちこそ、読むべき作品。
想像力を持って、誰かの声をキャッチして、互いに助け合う優しさがあれば、救われる人もきっといるはず。
自分のことだけでいっぱいにならず、誰かを支えられる人っていいよね。
52ヘルツの声をあげる、どこかの誰かに気づける自分でありたいと願います。
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「52ヘルツのクジラたち」は、本屋大賞を取った凪良ゆうさんが帯のコメントを書いていました。
凪良ゆうさんの「流浪の月」は、「52ヘルツのクジラたち」に雰囲気やテーマが似ていて、どちらもきっと好きになりますよ。
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