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「ある男」平野啓一郎|過去がたとえ嘘でも、真実の愛は変わらないのか?

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愛した男は、実はまったくの別人だった…。

その人を形作っていたはずの過去はなく、語られたのは別の誰かのストーリー。

それでも、真実の愛は変わらないものでしょうか。

シーア

そんなことになったら…って、想像もつかないよ。

ひとりの男の、生と死の物語であり、周囲に生きる人間の物語をご紹介します。

自分の人生、他人の人生…本来なら、自分以外の誰かの人生を生きることはできないはず。

ですが、その境目が、想像以上にあいまいなものだとしたら…。

この記事では、公表されているあらすじ以外には触れず、ネタバレなしで「ある男」の感想をお伝えしていきます。

ライト

「ある男」を解説するよ!

「ある男」平野啓一郎|登場人物

「ある男」のタイトルになっている人物は、「谷口大祐」と呼ばれていますが、正体がわかりません。

周囲の人たちこそ、「ある男」のメインの登場人物と言えるでしょう。

  • 武本里枝…2歳の次男(遼)を脳腫瘍で亡くし、夫と離婚。残された長男(悠人)とともに地元の宮崎に帰り、谷口大祐と再婚。
  • 城戸章良…弁護士。里枝の離婚のときに担当した縁で、谷口大祐の正体を探る。

2019年本屋大賞にノミネートされ、5位に輝いた作品です。

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「ある男」平野啓一郎|あらすじと内容

里枝は、幼い次男を亡くしたあと、夫と離婚し、長男とともに故郷に戻ってきました。

谷口大祐と出会い、徐々に関係を深め、再婚します。

長男のことも大切にしてくれて、大祐との間に娘を授かり、幸せなときを過ごしていました。

しかし、ある日、不慮の事故で、大祐は命を落としました。

シーア

どうして…?

これまで交流のなかった、大祐の実家の家族とのやりとりで、なんと大祐はまったくの別人だと判明。

ライト

じゃあ、今まで谷口大祐だと思ってた、この人は誰なの…?

自分の愛した男は、いったい何者だったのでしょうか。

里枝は、かつて離婚した際にお世話になった、弁護士の城戸に相談します。

想像もつかない事実が待っているとは知らずに…。

「生」を入れ替えることはできても「死」を入れ替えることはできない

里枝が衝撃を受けたのは、夫が「谷口大祐」ではなかったことだけではありません。

彼女は、次男の遼を亡くしたとき、「代わってやりたい」と心から願ったけれど、当然のことながら叶わなかった経験があります。

人生は、他人と入れ替えることが出来る。――そんなことは、夢にも思ったことがなかったが、彼女の夫は実際そうしていたのだった。別人の生を生きていた。しかし、死は? 死だけは、誰も取り替えることが出来ないはずだった。

彼女がそのことを身悶えしながら知ったのは、言うまでもなく、遼の死に際してだった。

他人と人生を入れ替えることはできても、死を入れ替えることはできない…はずでした。

それなのに、夫は死んでしまったのです。

死んだのは、いったい誰だったのでしょうか

里枝が、夫の本当の名前、自分が愛した男の過去を知りたいと思うのも、理解できます。

それがわからないと、自分の足元まで揺らいでしまいそうだから。

シーア

もし自分だったら…と置き換えて考えたら、きっと知りたくなると思う…。

真実の愛とは、過去も含めて丸ごと受け入れること

愛にとって、過去とは何だろうか?

その瞬間だけを見て、人を愛することはできません。

「こんな経験をしたから今がある」と言えるストーリーや、一緒に過ごした時間、昔の思い出…すべての積み重ねで愛は育まれます。

シーア

一目惚れっていうのもあるけど、それって見た目とか直感だもんね。

子育てもまさにそうで、どんなに反抗期があっても、わかりあえなくても、赤ちゃんの頃からのつながりや関係性が愛情となって、つらい時期も乗り越えられるのです。

それらのひとつひとつが、別人の記憶だとわかったら…?

きっと、裏切られたような気持ちになるでしょう。

今まで騙されていたんだ、と思うかもしれません。

それでも変わらない愛があるとしたら美しいけれど、素直に受け入れられないはず。

ライト

過去を捨てたくなるような、よっぽどの理由があったのかな。

真実の愛とは、過去も含めて丸ごとのその人を愛することなのかもしれません。

たとえ、その過去が変えられたものだったとしても…。

シーア

簡単には答えが見つからない問題だよね。

里枝の長男・悠人の気持ちと成長

もうひとり、「ある男」の登場人物で目が離せないのは、里枝の長男の悠人。

物語は、里枝と城戸を中心に語られますが、悠人の立場から見ると、壮絶な人生です。

彼は、幼い弟を亡くし、親の離婚で「前のお父さん」と離れ、母親の故郷に移り住み、親の再婚により「後のお父さん」と暮らし始めたものの、ほんの3年で死に別れたのです。

シーア

つらすぎる…!

子どものうちに、肉親の死を立て続けに経験した悠人が、どう感じるのか…心が痛みます。

「苗字、どうなるの?」とか、つとめて現実的な質問をしてくるのも、複雑な感情を抑えているように感じます。

作中で、里枝の視点から、悠人の成長が語られるので、注目してくださいね。

ライト

ぜひ「ある男」を読んでみてほしいな。

「ある男」平野啓一郎|本当の愛は過去を超えるのか

シーア

この人の人生って幸せだったのかな…と考えさせられるよね。

過去を偽りたいと思うほどのつらい経験が、彼の新たな生を作った事実。

城戸が調べ上げた、「谷口大祐」の正体を知って、何を思うのか…それは、読者ひとりひとりの感じ方に委ねられます。

あなたは、谷口大祐は幸せだったと思いますか?

里枝の愛は本物だったのでしょうか?

結局、代わりのきかない死に向かって、自分自身の生を、なんとか生き抜いていくしか答えはないのかな。

ライト

真実の愛って、いったいなんなんだろうね。

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