あなたは、大切なものを失ったことがありますか?
埋められない穴を感じながら日常を過ごしている方に、おすすめしたい小説があります。
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5つの作品からなる、連作短編集です。
1作目、「指のたより」の冒頭から、世界観に引き込まれて、現実世界に戻ってこられないくらい、グッときます。
そこはかとない孤独だったり、大切な骨が欠落しているかのような心許なさ、取り戻せない過去、もういない、かけがえのない人…。
この記事では、直木賞候補にもなった彩瀬まるさんの名作、「骨を彩る」をレビューします。
骨を彩る|心に喪失や痛みを抱える人を繊細に描く連作短編集
「骨を彩る」は、5つの短編が収録されています。
- 指のたより
- 古生代のバームロール
- ばらばら
- ハライソ
- やわらかい骨
一見、短編集のようで、それぞれがリンクしています。
もちろんひとつひとつでも楽しめますが、片側からでは見えなかった感情や葛藤が、関連したお話を読むことで、よりくっきりと浮かび上がります。
「骨を彩る」第1話|指のたより
10年前に妻を病気で亡くした津村は、娘の小春と二人暮らしで、父親から受け継いだ不動産屋を営んでいます。
妻の夢を見ると、指が1本欠けている…妻の手帳に書かれた「だれもわかってくれない」の文字。
妻は自分を恨んでいるのではないか?
「骨を彩る」第2話|古生代のバームロール
光恵は、亡くなった恩師の葬儀に来なかった、古い友達の真紀子を思います。
羽振りがよかった実家はなくなり、胡散臭いエステと化粧品販売の仕事をしている真紀子。
光恵自身も、離婚を経験したし、旧友たちもそれぞれの人生でいろいろある…。
本当のところは誰にも分からないけれど、人生のひとときを誰かに救われ、救い合う、そんなふれあいの一瞬。
「骨を彩る」第3話|ばらばら
玲子は、自分の人生はお芝居で、ばらばらの寄せ集めだ、という気持ちが消えません。
仕事も結婚もうまくいっているように見えるけれど、親の離婚や再婚で何度も苗字が変わっていて、誰かに頼ることがうまくできない。
息子がいじめられている、と知って、解決したかったけれど、当の息子本人に「おかあさんがこわい」と言われてしまう。
しばらく子どもからも仕事からも離れるために、ひとり仙台に向かう。
「骨を彩る」第4話|ハライソ
無料オンラインゲームのチャットで交流する、浩太郎とヨシノ。
出会ったときには浪人生と不登校の中学生だったが、数年が経ち社会人と大学生になりました。
顔を合わせない関係だからこそ、面と向かって話せないような悩みや、男女交際のことも話せるんですね。
受け入れられ、許される、そんな居場所が誰にとっても必要で、それは現実世界だけに限らないということ。
「骨を彩る」第5話|やわらかい骨
転校生の葵は、何かの宗教を信仰していて、食事の前にお祈りをすることがきっかけで、学校で浮いてしまいます。
小春は、バスケ部で葵と友達になりました。
だけど、「葵は、お祈りとかしなければ普通なのに」という思いが消えません。
小春には、母親がいないけれど、それをかわいそうがる人にうんざりしています。もっと普通でいいのに…。
大切なものを失ったことのあるあなたに読んでほしい小説
5つの作品とも、読む人それぞれで、響くポイントや、心に残る部分が変わってくるはず。
静かな文章の中に、心の奥底の、フタをして見ないふりをしてきた感情を引きずり出すような強さがあります。
例えば、ずっと思っていたけど言えなかったことや、言葉が見つけられないでいたものを、遥かに時間が経ったあとで、すっと差し出されたような。
自分でも忘れようとしていた記憶や、胸の奥にしまったはずだった思い出を、さらけ出されるような。
心の襞の裏を、爪先でカリカリ引っかかれているような。
そんなもの、誰にも見せたくなかったはずなのに、読むのがやめられないんです。
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「骨」とは、大切なものの象徴
骨なんて言葉、ホラー小説でもない限り、なかなか出てきませんよね。
この作品では、骨とは、大切にしていたものを表しています。
失くしてしまって、もう取り戻せないもの。今は見えなくても、確かにそこにあったもの。
どんなに格好悪くて、いびつな骨でも、それは自分の根幹なのです。
「欠点」という言葉があるように、本作ではそれが「欠けた骨」つまり、自分に足りないものの象徴なのかなと。
自分の欠けた「骨」は、誰かにとって魅力的に映ることがある
どんな人にも必ず、欠けた部分があります。
完璧な、失敗も葛藤もなにもない人間なんて、どこにもいません。
3作目「ばらばら」の主人公、玲子は、なんでも卒なくこなす、頼りになる優等生でいました。
玲子だけでなく、みんな、どこかに埋められない穴を抱えています。
しかし、自分の欠けた部分、負い目に感じていることは、ある人にとっては、美しく力強いものに映ることもあります。
5作目「やわらかい骨」で、悠都という男の子が、小春に告白して、付き合い始めます。
悠都は、母のいない小春の、家庭科の調理実習で見た生活感を語ります。
小春視点の地の文で、このような表現があります。
私の体の中で起こっていること、もろく黒ずんだ弱い骨が、この真っ黒い目にはまったく違う、力強く善いものとして映っている。
それぞれ、欠けている部分が違うからこそ、自分にはないものに惹かれるのでしょう。
たとえ、骨が歪んでいたり、足りなかったり、欠けていても、そのままでいいんだと受け入れてくれる存在が、誰にとっても必要なのです。
欠落を受け入れて、優しく包み込み、生きていく
どうしようもない、わからない…。
時間が経っても、何かが解決するということはほとんどなくて、傷はいつまでも消えず、じわじわ抜けない棘のように残ります。
お互いの欠落を受け入れて、「欠けているところが美しいんだよ」と言ってくれる相手と共に、生きていく。
それを、最後に希望として差し出されます。
すごく泣ける、とか、号泣、という感じではありません。
きっと、泣かせようという意図で書かれていないでしょう。
でも、私はこれを書きながら、何度も、じわじわと泣きそうになるのを我慢しています。
読み始めてからずっと、表面張力で頑張っている状態。
https://twitter.com/seer1118b/status/987493067421708288
痛いところに触れられると、最初は痛いし、「触らないで」と思うのだけど、その手が温かくて、なでてもらっている間に痛みがやわらいでいく…。
そんな心地よさを感じる作品です。
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彩瀬まるさんは、喪失と向き合って優しく背中を押す作風
彩瀬まるさんは、1986年生まれの若い作家さんです。
ご家族の関係で、5歳のときにアフリカのスーダンで2年間、その後アメリカのサンフランシスコで9歳まで暮らします。
小学校4年生のとき帰国。海外生活でも、帰国後も、常に本がそばにありました。
中学2年生から、自分でファンタジー小説を書き始めました。上智大学在学中に、作家になることを決意します。
静かな優しさの中に、心のかさぶたを剥がすような生々しさ。
そこはかとない喪失感や静謐さを描くのがとてもお上手。
どこか物悲しい雰囲気だけど、希望の光が見えるような。
心の傷を優しくなでてくれるような。
白黒はっきりつけるのではなくて、失ったものも汚いところも、自分で説明できないような過去も、全部ひっくるめて生きていく。
「それでもいいんだよ」と包み込んで許してくれるような、そんな作風です。
彩瀬まるさんの他の著書~デビュー作、ノンフィクション、直木賞候補作
彩瀬まるさんは、2010年に「女による女のためのR‐18文学賞」読者賞を受賞して、2013年に「あのひとは蜘蛛を潰せない」で単行本デビューされました。
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小説とは違ったところで、「暗い夜、星を数えて 3・11被災鉄道からの脱出」は、東北への電車の中で大震災に遭った際の被災体験を生々しく語ったノンフィクションです。
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その後、被災体験で感じたことを元に、理不尽に大切な人を失った人に寄り添うような「やがて海へと届く」を発表されました。
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2017年、「くちなし」で直木賞候補になりました。
これまで、彩瀬まるさんを知らなかった方にも、ようやく知られるようになってきたのではないでしょうか。
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個人的には、これからもっと有名になるべき作家さんだと思っています。
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「骨を彩る」が気に入った方は、きっと何かを失う痛みに敏感なはず。
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