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「ベルリンは晴れているか」深緑野分|戦争に翻弄された少女の歴史ミステリー

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こんにちは。シーアです。(@seer1118b

第二次世界大戦のドイツで、理不尽な時代を懸命に生きる少女を描いた物語をご紹介します。

ベルリンは晴れているか 深緑野分

2019年本屋大賞で3位に輝いた作品です。

荒廃したベルリンで、恩人の死を知らされたアウグステ。

恩人の死を知らせるべく、恩人の甥であるエーリヒを探す旅に出ます。

謎解き要素もあるけれど、どちらかというと、傷つきながら戦争で混乱した時代を生きるアウグステの自叙伝のようなお話。

シーア
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戦争ってつらくて見ていられなくて、正直苦手なジャンルなんだけど…。

重くて長いストーリーですが、目を背けてはいけない迫力があります。

普段、戦争を題材にした小説をあまり読まない方でも、ストーリーの行く末を追いながら、自然とのめり込めますよ。

ライト
ライト
「ベルリンは晴れているか」を解説するよ!

「ベルリンは晴れているか」深緑野分|登場人物

「ベルリンは晴れているか」は、1945年、第二次世界大戦が終わったばかりのドイツが舞台です。

  • アウグステ・ニッケル…主人公。17歳のドイツ人少女。
  • ファイビッシュ・カフカ…今は泥棒だが、元はユダヤ人役で有名なコメディ俳優。
  • クリストフ・ローレンツ…不審な死を遂げた音楽家。アウグステを匿った恩人。
  • フレデリカ・ローレンツ…クリストフの妻。戦時中、ナチス・ドイツに迫害された人を保護する活動をしていた。
  • エーリヒ・フォルスト…フレデリカの亡くなった姉の子で、引き取ったものの行方不明に。

終始、アウグステの視点で語られる物語ですが、途中に「幕間」として、アウグステの過去が語られます。

アウグステが赤ん坊の頃、中等学校時代…戦争の状況はどんどん悪くなり、過酷になっていきます。

隣家のユダヤ人一家が「移住」させられ、アウグステの父親は収監されて死刑になり、母親も後を追う…壮絶な体験をしながらも、アウグステは生き延びたのです。

「ベルリンは晴れているか」深緑野分|あらすじ・内容

1945年7月、ナチス・ドイツは、戦争に敗れ、アメリカ・ソ連・イギリス・フランスの4ヶ国の統治下に置かれていました。

混乱を極める状況で、アウグステの恩人であるクリストフが死亡…。

原因は、毒を入れられたアメリカ製の歯磨き粉を使ったから

アウグステは、アメリカ人兵士の食堂で働いていたので、支給品でアメリカ製の歯磨き粉を手に入れていました。

だから、警察に殺人犯ではないかと疑われてしまいます。

シーア
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かつての恩人なのに…どうしてアウグステがクリストフを殺さなきゃいけないの!?

釈明の末、いったん解放されたアウグステは、亡くなったクリストフの甥にあたるエーリヒに、訃報を伝えたいと思い立ちます。

ドブリギン大尉の監視の元、エーリヒがいたと思われるウーファシュタットへ向かいます。

案内人として、警察で出会ったお調子者の泥棒、カフカが同行することに…。

ウーファシュタットは映画の撮影所があるので、元映画俳優だったカフカは道に詳しいのです。

ですが、実は、ふたりには、それぞれの思惑がありました。

ライト
ライト
あっと驚くラストに注目だよ!

さまざまな困難や壁に立ち向かいながら、荒れ果てたベルリンの街を歩くふたり…道の先にどんな景色があったのでしょうか。

「ベルリンは晴れているか」|表現力と説得力、圧倒的なリアリティ

当時のドイツに漂う、絶望と怒り、それでも生きる人間の力強さ、わずかな希望…。

まるで見てきたかのような表現力で、情景をまざまざと思い浮かべることができます。

シーア
シーア
あまりにリアルで、ノンフィクションだと言われても信じてしまいそう…!

深緑野分さんは、当時のドイツを再現するべく、相当取材をされています。

「こんな感じだったのでしょう」というような逃げや伝聞ではなく、その場に暮らす人間が語っている感覚。

説得力のある文章で、ただひたすら圧倒されます。

筑摩書房の特設サイトでは、深緑野分さんの創作ノートが公開されています

被害者? 加害者?誰もが悪に染まる可能性を秘めている

戦時中のドイツは、想像を超えるひどい状況でした。

互いに監視しあい、密告を恐れ、人を信じられない世の中。

ユダヤ人は迫害され、ドイツ人もユダヤ人をかばった罪で逮捕される…。

共産党員と見なされると、ヒトラーに楯突いた反乱分子として処刑されました。

シーア
シーア
そんなひどいことが立て続けに起こるなんて、気が狂いそう…。

誰もが、ふとしたことで悪に染まりうるのです。

時代背景や、戦時下という、生か死かを選ばないといけない状況に迫られて…。

アウグステは、心優しい善良な少女でありながら、ロシア人赤軍兵に強姦されて、相手を銃で射殺した経験があります。

戦争だから仕方なかったんだ、やらなければ私が殺されていたかもしれなかった…。

そう言い聞かせながらも、一人の人間を殺した罪はアウグステを苛みます。

アウグステは、カフカに「いかにも善きドイツ人」と揶揄されるたび、自分が人を殺めたのだという事実を思い知らされるのです。

被害者であり、加害者でもある。そのどちらにも転びうる

人に優しくできるのは、平和な世の中だからこそで、状況が変われば誰だって人を陥れる可能性があるのです。

どんな時代、どんな場所にも、普通に生きる人達がいる

私たち日本人は、日本の目線でしか第二次世界大戦を知らないのかもしれません。

社会科の教科書で知る歴史は、どうしても一面的で、他人事に感じてしまいます。

ですが、ドイツにも、アメリカにも、普通に生きる善良な人たちが暮らしていて、家族がいて、大切なものがあるのです。

シーア
シーア
当たり前のことなのに、つい忘れてしまいそうになるよ…。

実は、ナチスは民主主義の選挙のもとで選ばれた体制でした。

ヒトラーに投票した人がたくさんいたということ。

自分たちが選んだとはいえ、まさかユダヤ人を迫害して、戦争をして…こんな独裁政治になるなんて、誰も想像していなかったでしょう。

だけど、現実にホロコーストは起こってしまった。

ライト
ライト
現代では考えられない、ありえないって思ってしまうけど…。

いつの時代の、どこの国だって、もしかしたらまた同じ過ちが繰り返されるかもしれない。

そうならないために、私たちは学び続ける必要があるのです。

「ベルリンは晴れているか」深緑野分|戦争を知らない世代が読むべき小説

「ベルリンは晴れているか」は、戦争を知らない世代の人にこそ、読んでほしい作品。

17歳のアウグステが、人と人とが殺し合う戦争の最中に、心も体も傷つきながら、何を思って生きていたのかを感じ取ってほしい。

シーア
シーア
戦争がすべてを狂わせたんだ、って割り切れたらまだいいんだけど…。

私は、子どもがひどい目にあう話が苦手で、戦争を扱う作品は手にとるのを避けてきました。

ですが、「ベルリンは晴れているか」は、戦争は良くない、命は大切に…使い古された言葉では、とても言い表せません。

クリストフを殺した犯人が誰なのか…という謎よりも、大切なものが見つかります。

普段、戦争に向き合わずに生きている人ほど、読んでほしい作品です。

ライト
ライト
今の日本は晴れているのかな、ってちょっと考えさせられるね。

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ライト
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