良い作品を、自分の手で世に出したい。
偶然手にした、ピークを過ぎた作家の作品との出会いが、若手編集者に熱い思いを抱かせました。
本を愛するすべての人が感動する、作家と編集者にまつわるお仕事小説をご紹介します。
どんな思いで作品が書かれ、どのようにして作られ、出版まで至るのか…、知れば知るほど、さらに本が好きになりますよ。
「クローバー・レイン」を解説するよ!
「クローバー・レイン」大崎梢|登場人物
「クローバー・レイン」は、出版社の編集者が主人公。
- 工藤彰彦…主人公。大手出版社・千石社の文芸編集者。
- 家永嘉人…近年パッとしない、落ち目の作家。「シロツメクサの頃」を書く。
彰彦は、今まで順風満帆、人生すべて第一希望、大物作家の担当を任されて、うまくいってきた人でした。
ときどきそんな人、実際にいるよね…!羨ましい。
だからといって、いけ好かないやつではありませんが、世間知らずではありました。
出版社の歯車として、大物作家の著作を出版してきた彰彦。
これまで、自分から「この本をどうしても出したい!」と声を上げることはなかったのです。
そんな彼が、誰に反対されても絶対出版したいと願った原稿が「シロツメクサの頃」。
並々ならぬ思い入れで、徐々に周囲の人を動かしていきます。
「クローバー・レイン」あらすじと内容
彰彦が、家永の自宅でたまたま読んだ原稿が「シロツメクサの頃」でした。
感動のあまり、その場で「うちで出版させて下さい」と頼み込み、預かります。
だけど、そううまくはいかないよ。
話題の作家なら、引く手数多なのに、知名度のない作家は、どんなに内容がよくても、出版されるまで一苦労。
- この作家じゃ話題性がない。
- 売れないと意味がない。
- 千石社はそんな作家は相手にしない。
- 他社で出してもらって、賞を取ったらうちでも出版してもらおう。
失礼な話だけど、これが現実なんだね。
熱意・交渉・戦略! 大手出版社の裏事情と戦う
それでも、彰彦は諦めないよ。
良い本と売れる本は違う、というのが出版業界の本音。
それは、私たち消費者にも責任の一端があるのかもしれません。
大手出版社のお高くとまった対応にはうんざりですが、現状に文句を言っていても解決しません。
彰彦は諦めず、熱意と交渉と戦略を武器に、「シロツメクサの頃」の出版を目指します。
「クローバー・レイン」大崎梢|家族のあり方を考えさせられる
家永は、娘の冬実と折が悪く、家族との確執を抱えていました。
家永が「シロツメクサの頃」に入れた詩は、冬実が書いたものだったため、彰彦は編集者として「このまま使わせてほしい」と交渉します。
一方で、彰彦にも、複雑な関係の家族がいます。
「シロツメクサの頃」を出版することは、どちらにとっても、わだかまりを少し溶かすことにつながる、と信じていました。
家族って、外側からはわからないけれど、いろいろあるよね。
幸せそうに見える人も、きっといろいろ抱えているのかもしれません。
「クローバー・レイン」大崎梢|協力者、ライバル…人間ドラマにも注目
彰彦ひとりの力では、到底出版までこぎつけられません。
先輩編集者の赤崎や、編集長、家永の前々任の担当編集者・鈴村など、多くの人の協力が不可欠でした。
出版後は、「シロツメクサの頃」の販売部数を伸ばすために、営業の若王子にも協力を願い出ます。
若王子って、すごい名前だよね…。
彰彦は、若王子との交渉で、恵まれた立場からではなく、相手のメリットも考えて依頼することを学びました。
ライバルの相馬出版の編集者・国木戸とは、言い合いになったり、やけ酒に付き合わせたり、またやりあったり、いい関係です。
国木戸の方が先輩なのですが、だんだん彰彦の態度がざっくばらんになってきます(笑)。
また、最も見逃せないのが、家永の娘である冬実との関係。
編集者として、作品のために、家永先生のために…という壁を越えたときが、見どころですね。
「クローバー・レイン」大崎梢|誰かの「雨」になりたい
本ができるまでに、こんなにいろんな人の力が必要なんだね。
1冊の本ができ、人の手に渡り、読まれるまでに、こんな過程があるなんて。
この作品を読むまで、考えもしませんでした。
しかも、出版して終わりじゃなくて、その後売れなければ、やっぱり消えてしまいます。
絶版になる本もあるもんね…。
「シロツメクサの頃」に出てくる、冬実の書いた詩の中に、「雨になりたい」という言葉があります。
私がいま、手にしている本も、感動した誰かの力でここまできて「雨」になったのかもしれません。
誰かの行動が、いつかの自分を濡らす雨になって、その後の自分を形作っていく。
私も、誰かの雨になれているだろうか…そんな自問をしてしまうような作品です。
「クローバー・レイン」単行本の表紙
購入するなら、文庫本のほうが手軽で持ち運びやすくて良いのですが、装丁は、単行本の方が好きです。
彰彦より「シロツメクサの頃」が主役って感じられると思いませんか?
文庫本の表紙を見て「彰彦ってメガネなんだ~」って思ったなぁ。
そこなの…?
大崎梢の他の著作|日常の謎、書店ミステリー
大崎梢さんは、元書店員。
本屋さんや出版社、出版社と本屋さんの間に立つ「取次」を主人公にした作品を多数執筆されています。
日常の謎と言われるジャンルの、ライトなミステリーを多く書かれています。
「クローバー・レイン」作者の大崎梢さんのコメント
ありがとうございます。「クローバーレイン」は私にとっても大切な本なので、丁寧に読んでいただき嬉しいです。励みになります! https://t.co/GN679sBt4M
— 大崎梢 (@o_kozue) April 24, 2018
Twitterで、著者の大崎梢さんご本人に、この記事をご覧いただきました!
「クローバー・レイン」を大切に思っていらっしゃることをお聞きできて、愛読者としてとても嬉しかったです。
こんな素敵な作品を生み出してくださったこと、感謝しています!
「クローバー・レイン」大崎梢|まとめ
「クローバー・レイン」は、本が好きな方全員におすすめしたい作品です。
今、自分の手元にある本が、よりいっそう愛おしくなることは間違いありません。
彰彦の「シロツメクサの頃」にかける熱い思いに触れると、仕事への熱意ややりがいを再認識させられます。
明日からまた仕事頑張ろうって思えるよ。
お仕事小説としても、おすすめの1冊ですよ。
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