家族とは、距離が近いからこそ救いになる一方で、ときにやっかいなもの。
ただ支え合えるだけでなく、ぶつかり合い、葛藤することも…。
そんな家族を描いた、鋭くてあたたかい辻村深月さんの短編集をご紹介します。
大好きだけど、大っきらい。
家族って、近くにいすぎて、どうしても傷つけ合ってしまう。
だけど、遠くにいてもわかり合えるし、切っても切れない存在。
めんどくさいけど、あたたかくて、ぶつかりあうけど、離れたくない。
そんな家族のあれこれをひっくるめた、ややこしくて愛おしい短編集です。
「家族シアター」を解説するよ!
「家族シアター」辻村深月|家族にまつわる短編集
「家族シアター」は、タイトルの通り、一筋縄ではいかない家族を描いた、7つの作品からなる短編集。
ひとつひとつのお話に関連はなく、独立した短編です。
- 「妹」という祝福
- サイリウム
- 私のディアマンテ
- タイムカプセルの八年
- 1992年の秋空
- 孫と誕生会
- タマシイム・マシンの永遠
どの家族も、仲がいい円満な家庭というわけではなく、複雑な思いを抱えています。
「家族シアター」辻村深月|あらすじと内容
「家族シアター」に収録されている短編のあらすじを、ひとつひとつご紹介します。
基本的にネタバレなしだよ!
「家族シアター」辻村深月|1.「妹」という祝福
亜季は、「真面目な子」と呼ばれる姉の由紀枝がうっとおしくて仕方ありません。
だって、由紀枝は分厚いメガネとダサいみつあみで、クラスでも日陰の存在で、ちっともかわいくないから。
亜季は、明るくておしゃれな人気者で、センスが良くて友達が多いのが自慢。
学生時代って、亜季みたいな子の方がモテるし、クラスでの地位も高かったりするよね…。
だけど、亜季はとある事件をきっかけに、由紀枝に守られていたことを知ります。
そして、由紀枝が自分に対してどう思っていたのかも…。
「家族シアター」辻村深月|2.サイリウム
弟のナオはアイドルオタク、姉の真矢子はバンギャ。
好きなものを追いかけている、という共通点はあるのに、趣味が違いすぎて顔を見るたびに罵り合うふたり。
罵り合う…というか、真矢子が結構ひどいこと言ってる感じ。
会話読んでると、ウッてなるけど、姉弟だからこそ遠慮がないんだよね。
ナオは、姉が好きなバンドのことを綴っているブログを、こっそり盗み見ています。
ある日、ブログに不審な投稿をしたあと、真矢子は食欲も元気もなくなっていきます。
そんな姉が気になって仕方がない…無関心にはなりきれないあたり、やっぱり家族なのです。
「家族シアター」辻村深月|3.私のディアマンテ
娘のえみりは、学業優秀で、特待生扱いで高校に入学しましたが、母の絢子は、自分に学がないせいかあまりピンときていません。
高校生なんだから、もっと髪の毛を巻いたり、お化粧に興味を持ってもいいのになぁ、なんて思っています。
一般的には、母娘が逆のことが多そうだけど、こういうケースもあるんだね。
進路や大学、世の中の仕組み…わからないことがたくさんあるから、娘の気持ちも考えも読み取れず、いつも的外れ。
だけど、愛しているのは間違いないし、常に娘の絶対的な味方なのです。
お母さんだもん、そりゃそうだよね!
「家族シアター」辻村深月|4.タイムカプセルの八年
大学で日本語学を教えている「私」は、かなり世間ずれした父親。
息子の幸臣のクリスマスプレゼントを買ってくるように妻に言われていたのに、忘れていたし、運動会の朝も「父親が行く必要あるのか?」と、ひとりぼんやりしています。
私だったら一緒にやっていけないくらいイライラするんだけど!?
保護者同士の付き合いにも関わってきませんでしたが、幸臣が小学6年生のとき「親父会」という父親だけの集まりに参加することに。
担任の比留間先生は、熱血漢で評判がよく、子どもたちの思い出作りのために積極的に行事を企画します。
先生に憧れたおかげで、幸臣の将来の目標は「小学校の先生」になり、しかも有言実行で夢を叶えました。
すごく理想的な将来の夢だよね!
ですが、8年後、担任教師の知られざる真実がわかり…父親は、幸臣の夢を守るために動きます。
「家族シアター」辻村深月|5.1992年の秋空
年子の姉妹、はるかとうみか。
はるかは、友達とおしゃべりしたりマンガを読んだりするのが好きな、普通の女の子。
うみかは、小さい頃から科学や宇宙が好きで、他人に合わせることをしない、マイペースな子。
はるかは、うみかに対して、理解できなくて、大切なのに憎たらしい、複雑な感情を持っています。
なんとなくわかる気がする。同性の姉妹だしね。
ある日、うみかはひとりで逆上がりの練習をしていて、鉄棒から落ちて骨折、入院してしまいます。
もし手術でボルトを埋め込んだら、「宇宙飛行士になる」といううみかの夢は絶たれることになるかも…。
はるかは、練習に付き合うという約束をすっぽかしたせいで、うみかが怪我をしたと自分を責めます。
想像だけど、うみかが逆上がりができたら「科学」の雑誌を買ってあげると言ったお母さんも、うみかが怪我をしてきっと後悔したと思う…。
姉妹がお互いのコンプレックスを認め合い、受け入れる物語です。
「家族シアター」辻村深月|6.孫と誕生会
アメリカで暮らしていた長男一家から、「日本に戻ることになったから一緒に住まないか」と提案され、同居を始める祖父が主人公。
孫の実音
は、小学3年生。祖父から見ると、ジェネレーションギャップを感じることばかり。
偏食だし、繊細なタイプで、インターナショナルスクールでは友達がなかなかできませんでした。
「子どもっていうのは放っておいても仲良くなるもんじゃないのか?」っていうけど、昔もそうはいかなかったと思うけど…。
日本の学校では、浮かないように頑張っていますが…子どもだっていろいろあるんです。
「親が子どもに気を使いすぎ、甘やかしすぎでは?」と思いつつ、なるべく口を出さずにいようとこらえる祖父が、なんとも微笑ましい!
お互いに、接し方がわからなかったふたりが、素直になれる瞬間がたまりません。
「家族シアター」辻村深月|7.タマシイム・マシンの永遠
タマシイム・マシンとは、魂だけが過去にワープできる、ドラえもんのひみつ道具。
のび太は、自分が成長するにつれて大事にされなくなったと感じて、赤ちゃんの頃の自分の様子を見に行きます。
タイムマシンとは別物だよ!
そんなあまり知られていないタマシイム・マシンの話題をきっかけに出会い、結婚するに至ったふたり。
赤ちゃんの伸太を連れて帰省した実家で、孫をかわいがる父母、ひ孫をかわいがる祖母を見て、自分にも似たような経験があると直感します。
子どもが近づけてくれた家族の距離、呼び戻してくれた愛おしい記憶。
個人的には、この「タマシイム・マシンの永遠」ひとつだけでも、読んでよかったと心から思いました。
ところで子どもの名前の「伸太」って…ドラえもんの「のび太」から来てる?
「家族シアター」辻村深月|まとめ
家族って、厄介だけど誰よりも大切で、かけがえのない存在。
「家族っていいなあ」と感じるだけではない、ほろ苦い感情もあります。
だけど、やっぱりいろいろあっても家族なんだな…って感じさせられる、その絶妙な感覚が辻村深月さんらしい。
家族だからこそ、苛立ったり甘えられなかったり、複雑だよね。
家族特有の面倒くささもありながら、ラストは心あたたまる、珠玉の短編集ですよ。
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