本にひとめぼれすることがあります。
装丁だったり、タイトルだったり、そのたたずまいに、どうしようもなく心が惹かれてしまう…。
この作品は、理屈抜きで私の好みでした!
希死念慮だったり、夢に取り込まれそうになったり、サメに救いを求めたり…
危うい均衡をギリギリのところで保ちながら、それでもこの世界に光を見出そうとするような。
ファンタジーのような、ホラーのような、不思議な感覚の物語です。
「自由なサメと人間たちの夢」を解説するよ!
「自由なサメと人間たちの夢」渡辺優|短編全7作のあらすじ
本作は、サメにまつわる2つのお話を含めた、全7作品からなる短編集です。
- ラスト・デイ
- ロボット・アーム
- 夏の眠り
- 彼女の中の絵
- 虫の眠り
- サメの話
- 水槽を出たサメ
どの作品も、繊細で傷つきやすい感情を描いていて、足元がぽっかり闇に包まれたような気持ちになります。
少しだけストーリーのかけらをお見せしますね。
第1話|ラスト・デイ
さて、私は死にたい。本当に死にたい。心の底から死にたい。
こんな衝撃的でストレートな言葉から始まります…!
死に憧れ、自殺未遂をくり返し、精神病棟に入院中の主人公。
死にたい自分を自覚して、自分を「偽物」だと言って、何度も死にチャレンジして…。
何やってるんだろうこの人、という感情と、なんだか痛々しくて目を背けたいような気持ちと。
実は「切り札」を隠し持っているんだよね。
退院するその日、彼女はどんな道を選ぶのでしょうか。
第2話|ロボット・アーム
工場で働いているときの事故で、右手を失った後藤。
うえええ、痛そう…。
最近の義肢は発達していて、色や形、デザインを選んだり、パワーアップできるのだといいます。
もともと自分に自信がなかった後藤は、次第にさらなる力を得たいと考えるようになって…。
こういうのって、エスカレートしていくんだよね…。
第3話|夏の眠り
大学の夏休み、明晰夢を見るための訓練として、夢日記をつけ始める「僕」。
夢にしょっちゅう出てくる沙奈…。
主人公と沙奈って、どういう関係?
救いようのない現実。明晰夢の中なら、自分がこうなりたかった未来になれる…本当に?
どっちが現実で、どっちが夢なのかわからない感覚に、心の底がゾクゾクしてしまいます。
ちょっと怖かったよ…!
第4話|彼女の中の絵
毎週土曜日、仕事が休みの日に、美術館で模写をしている男。
ある日、常連の女性に「夢の中で見た絵を探している」と話しかけられたことから、平凡な日々が一変します。
彼女のイメージする絵を再現しようと、自ら描き始めます。
絵を描くスキルはあるけれど、自分の中に描きたいものがない男と、描きたい絵のイメージはあるのに、実際に描き出す技術はない女。
ふたりが迎える結末を、ぜひ見届けてください。
第5話|虫の眠り
女子高生が、友人をボールペンで刺すという事件が起こります。
いきなりどうして?
犯人はいじめられていた、「虫」というあだ名をつけられていた…。
だけど、刺された女子は、あだ名をつけたのとは別の子。
なんだか混乱してくるね…意図がわからないよ。
それぞれの感情が、あけすけに書かれていて、後ろめたくて直視できない気持ち。
実は、ここまで自覚的じゃないだけで、みんな無意識にしてしまっているのでは?
なんだか意外な結末だよ。
他の短編の要素も少し含まれていて、混ざり合いながら溶け合っているようなお話です。
第6話|サメの話
ここから、2話連続でサメが出てくるお話になるよ。
情緒不安定で、自分なんてゴミみたいだって思っていて、ヤバイ薬に手を染めている、キャバクラ嬢の鈴香。
どうしようもない日々の中、「サメを飼いたい」という憧れに支えられて生きてきました。
「サメ」
私はサメに話しかける。
「サメ、私を救って」
サメにサメ以上のものを求めるくらい、追い詰められている彼女が痛々しくて…。
でも、お客さんに「元気だせよ」って軽々しく言えちゃう鈴香が、性根はいい子だって分かるから、応援したくなるんです。
サメは、鈴香の気持ちにどう応えるのでしょうか…。
第7話|水槽を出たサメ
「サメの話」の続きだよ。
鈴香の元を去ったサメが、一人称「吾輩」として語る後日譚。
故郷のボラボラ島。鈴香の心にも刻まれたその名前。
鈴香の人生、サメの生まれた意味。
なにもないのかもしれないけど、それならせめて、楽しく生きたい。
ラストに残る余韻を、ぜひあなたにも味わってほしいな。
「自由なサメと人間たちの夢」は、毒を仕込んだファンタジー
「自由なサメと人間たちの夢」は、生きにくいと感じる全ての人に読んでほしい小説です。
生きることって、今感じているほど悪くないかも?
自分なんてクズだ、ゴミだと感じて、自己肯定感を持てない主人公たちが、それでも少しでも生きた意味を、爪痕を残そうとあがいています。
この世に絶望するのはまだ早い。
一生懸命生きてみれば、意外と悪くないもんだって感じられますよ。
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私はもともと海が好きで、海洋生物全般に興味があります。
その影響で、サメをテーマにしたこの小説にも惹かれたのかもしれません。
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