小説

「架空の犬と嘘をつく猫」寺地はるな|無駄なものを大切にしたくなる家族小説

imaginary-dog-and-lying-cat

家族の形は、ひとつじゃない。

嘘つきで、逃げ腰で、ときに間違ったこともしてしまう、どうしようもない家族だけど、かけがえのない人たち。

家族のあり方を考えさせられる、残酷だけどあたたかい小説をご紹介します。

嘘つきと言われる羽猫家。

みんな心が強くて弱くて、ボロボロに傷ついて、それでも優しくあろうとして嘘を選ぶしかなかったのです。

シーア
シーア
感動モノと呼ばれる作品じゃないけど、私は泣けて泣けてしょうがなかったよ。

家族の嘘が解かれて、真実の姿が見えたとき、あなたはどう思うでしょうか?

ライト
ライト
「架空の犬と嘘をつく猫」を解説するよ!
寺地はるなさんの小説、個人的おすすめランキングです。
terachiharuna-matome
寺地はるなの小説おすすめ12選|強くて優しい、心が疲れているときに読みたい作品寺地はるなさんの小説が好きです。つらい状況にあっても優しい登場人物、綺麗事じゃない世界、現実のほろ苦い毒、そんな中でもしなやかな心を忘れない強さ。人生いろいろあるけど、私ももうすこし頑張ってみよう、と思える作品たち。読後感がよく、心が疲れているときにもピッタリ。あらすじと感想を交えて、個人的おすすめ順にご紹介します。...

「架空の犬と嘘をつく猫」寺地はるな|登場人物

「架空の犬と嘘をつく猫」に登場するのは、羽猫(はねこ)という変わった苗字の一家。

羽猫家の人たち
  • 僕:山吹…主人公。家族のバランサーで、母に寄り添って嘘をつき続ける。
  • 姉:紅…嘘が大嫌いで、早く大人になって家族から離れたいと思っている。
  • 祖父:正吾…商売上手でもないのに、遊園地を作る計画などをする、夢見がちな老人。
  • 祖母:澄江…嘘のいわくつきグッズを売るお店をやっているが、比較的まとも。
  • 父:淳吾…現実から逃げ、嘘でやりすごし、愛人を作っている軽い男。
  • 母:雪乃…青磁が死んだことを受け入れられず、生きているかのように振る舞っている。
  • 弟:青磁…家族の希望の星だったが、4歳の頃、事故で亡くなった。

家族の形を保っていられるように、それぞれが無理をしている状態。

1988年から2018年まで、5年ごとに、30年もかけて語られるストーリー。

はじめは8歳だった山吹も、ラストには38歳になっています。

「架空の犬と嘘をつく猫」寺地はるな|あらすじ・内容

羽猫家は、「嘘つき」の家系と言われています。

シーア
シーア
九州の田舎だから、家単位で判断されがちだし、人の噂が広がるのも早いんだよね。

次男の青磁を亡くしてから、まるで空想の世界で生きている母。

そんな妻と向き合わず、愛人の元にすぐ逃げる父。

「この家の大人はみんなおかしい」と反発する姉。

「山吹、遊園地のキャラクターにするから、羽の生えた猫の絵を描け」などと適当な思いつきで動く祖父。

お店の商品に「このアクセサリーは昔ある屋敷のお嬢さんがね…」と、嘘のエピソードをつけて売る祖母。

そんなめちゃくちゃな家で育った山吹は、小さい頃から、母が望む「嘘」に合わせたり、大人の様子を見ながら成長してきました。

そうしないと、家族がバラバラになりそうだったから…。

青磁のふりをして母に手紙を書く山吹、苛立つ紅

ライト
ライト
紅は、家族みんな嫌いだけど、母に合わせて嘘をつく山吹にも苛立っていたよね。

山吹は、「青磁は親戚のおじさんの家にいて、遠くの賢い学校に行ってる」ということにして、青磁のふりをして母に手紙を書いていました。

紅は「なんで本当のこと言わんと?いい子ぶって…」と怒ります。

だけど、母に真実を突きつけても、仕方がないこともわかっています。

ふさぎ込んで、数日寝込んで…目の前の紅や山吹は生きているのに、死んだ青磁のことばかり。

シーア
シーア
なんだか、切ないし悲しいね…。

それに、ふたりとも、母が笑っていると嬉しいのです。

たとえ、青磁が生きているという幻想ありきの笑顔でも。

山吹の「架空の犬」は、生きていくために必要な存在

山吹は、子どもの頃から自分の力ではどうしようもないことが多すぎました。

そんなとき、架空の犬をなでて、かわいがって、心を癒やしてきました。

小さい頃に近所に住んでいて、すぐに離れ離れになった犬、ジョンみたいな。

ライト
ライト
柴犬っぽい雑種だったんだよね。

本当は、まっすぐ現実に目を向けるべきで、世界への正しい立ち向かい方ではないのでしょう。

そんなことをしても、現実は何も変わらないって、山吹がいちばんよくわかっています。

シーア
シーア
でも、正しいってなんだろう…?

どこにも行かれんよ、と山吹は言う。声が掠れた。行く場所なんかどこにもないのだ。

子どもには、お金も行動力もないから、現実が受け入れられなくても、どこにも行けません。

だから、今いる場所で現実とどうにかうまく折り合いをつけるしかないのです。

ひとりで架空の犬をなでていた山吹にも、成長して大人になった今、寄り添えるパートナーができ…自分のことのように嬉しい気持ちになれます。

シーア
シーア
山吹が、架空の犬の存在を語るシーン、何度読んでも泣ける…。

無駄なもの、優しい嘘が現実を救う

祖母は、山吹に「あんたは社会にとって、なんの役にも立ってない子」と言います。

シーア
シーア
えっ…普通、孫にそんなこと言う?全然まともじゃないよね?

それだけ聞くととても冷たく、愛がなく感じる言葉。

だけど、祖母の本意は別のところにあります。

世の中は、役に立つものだけでできているわけではない

プレゼントを飾るリボン、服につけるブローチ、ババロアに入れるバニラエッセンス…どれも見た目や香りを楽しませてくれるけれど、ただそれだけ。

でも、世界にキレイなもの、いい香りのもの、心が浮き立つようなものたちがなかったら、とたんに味気なく、色あせて見えるでしょう。

ライト
ライト
だから、山吹がたとえ役に立っていなくても、存在していていいんだよって言いたいんだよね。

不器用で、ぶっきらぼうな言葉で、一般的な孫をかわいがるおばあちゃんという雰囲気はないけれど。

彼女なりに、紅や山吹を愛しているし、雪乃のことも娘のように思っています。

役に立たなくても、誰かから見て価値がなくても、生きていてほしいと思うほどに。

「架空の犬と嘘をつく猫」寺地はるな|まとめ

羽猫家は、とても長い回り道をして、ようやく今にたどりつきました。

シーア
シーア
まっすぐに進まなくてもいいんだよ、って許してくれるような物語だよね。

結末に向かう2018年、山吹が語る青磁への思い、家族への感情は、涙なくしては読めません。

いろいろあったことを知っているから、山吹の未来が幸せであるように、祈らずにはいられないのです。

ライト
ライト
どこの家族にも、いろいろあると思うから、共感できるところもあるはず。

家族のあり方に迷う人、愛し方がわからない人にも、読んでみてほしい作品です。

関連記事

寺地はるなさんは、優しい作品を書かれる作家さん。

どの物語も、傷ついた人への愛にあふれています。

古い価値観をしなやかにひっくり返す連作短編集。
adult-not-cry
「大人は泣かないと思っていた」寺地はるな|古い価値観を変えていく、さわやかな短編集現代は、多様性が認められる社会になりつつありますが、恋愛や結婚、家族のあり方は、「昔ながらの当たり前」を押しつけられ、傷ついている人も多いですよね。そんな古い価値観を少しずつ変えながら、生きづらさを克服して、自分らしく過ごそうとする人たちを描いた短編集をご紹介します。男だから・女だからという差別や、「普通」のありかたを、しなやかに変えていく彼らのスタイルを、応援したくなりますよ。...
寺地はるな作品、他にもレビュー記事を書いています。
家族について書かれた作品をまとめてご紹介しています
family-novel
家族がテーマのおすすめ小説12選【愛と感動、ときどき葛藤】離婚や死別、シングルやステップファミリーなど、家族のあり方が多様化している現代。身近すぎて、ときに甘えすぎてしまったり、壊れそうになったり…家族って、意外と儚いものなのかもしれません。また、血のつながりがなくても家族といえる関係も。さまざまな家族小説をご紹介します。...
ABOUT ME
シーア
年間120冊の本を読んできた経験から、おすすめの本をご紹介します。 「絵本講師」の資格を持っています。大人にも子どもにも絵本の魅力をお伝えしたい! 夫・男子ふたり・犬と暮らすワーキングマザー。 仕事も読書も育児も、自分のやりたいことを全部諦めない、欲張りさんです。好奇心旺盛で、いろんなことに興味があります。
【Kindle】スマホで読書をはじめよう
シーア
シーア
小説もビジネス書も、全部自分のスマホ1台で読めるよ!

本を読みたいけれど、かさばるから持ち運びにくい、置く場所がない…とお悩みの方には「Kindle」がおすすめ。

いつでもどこでも、片手で読めるから便利。

私は、防水のiPhoneをお風呂に持ち込んで、Kindleで読書しています。

日替わり・週替わり・月替わりでセールがあるほか、Kindle Unlimitedでは、月額980円(30日間無料)で読み放題のタイトルもあるので、チェックしてみて下さいね。

ライト
ライト
紙の本よりもちょっと安いのもいいところ!
RELATED POST