こんにちは。シーアです。(@seer1118b)
自転車のロードレースって、知っていますか?
漫画「弱虫ペダル」などで、一躍メジャーになった感がありますよね。
近藤史恵さんは、デビュー25周年になるベテランのミステリー作家。
日常の謎から殺人事件、イヤミスに近いものまで、幅広い作風です。
そんな中、ロードレースを舞台にした小説は、異色の取り合わせといっていいでしょう。
ロードレースというスポーツの枠に留まらない作品で、青春であり、人間ドラマであり、ミステリー。
ロードレースを知らないから、と敬遠する必要は全くありません。
主人公は、日本人ロードレーサー、白石誓(しらいしちかう/愛称:チカ)。
チカのフラットで客観的な考え方に、安心して身を委ねることができます。
シリーズを読み終わる頃には、チカが今もまだ世界のどこかのレースに参戦しているような気さえしてきますよ。
サクリファイス|犠牲になったのは誰なのか?
「サクリファイス」近藤史恵
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陸上選手から自転車競技に転向したチカ。
プロのロードレースチームに所属して、各地の大会を転戦する中で、ヨーロッパに遠征しました。
アシストの役割は、チームの勝利のためにエースに尽くすこと。
試合中でも、スピードを抑えているときは、選手同士会話をするシーンもあり、純粋に驚きました。
人の弱さや、土壇場での底力、その全てにグッと来ます。
アシストの役割はエースを勝たせること。「ぼくの勝利は、ぼくだけのものではない」
自転車のロードレースは、チーム競技です。
チームには絶対的なエースがいて、エースを勝たせるために、アシストは我が身を犠牲にする覚悟で走ります。
ときにはエースより前に出て、風の抵抗を一身に受けて、エースが体力を消耗しないように尽くします。
自分の水や食糧を、エースに渡すことも当たり前。
アシストは影の存在。公式記録に残るのはエースの成績。
それがアシストに求められる役割だと理解しているものの、複雑な気持ちになる選手が出てくることは、ある意味仕方がないのかもしれません。
エースには、重圧がのしかかります。
強く在らないといけない、という自負。誰にも愚痴や悩みを言えない孤独。他チームからのやっかみ、足の引っ張り合い…。
「ぼくの勝利は、ぼくだけのものではない」という、チカの独白が、この作品のすべてであると感じます。
途中まで、謎があるということすら気づかせないほどの勢い。
ページ数の少ない本ですが、その分無駄がなく、ギュッと詰まっています。
エデン|ツール・ド・フランスは世界一過酷な楽園
「エデン」近藤史恵
前作「サクリファイス」から3年後のお話。
先にお伝えしておきますが、絶対に「サクリファイス→エデン」 の順番で読んで下さい!
エデン単体でも面白いですし、完成された作品。
ですが、ラストのセリフの胸への刺さり方が、サクリファイスを読んでいるか否かで大きく異なります。
スポンサー契約と、ドーピング疑惑が、選手たちを揺るがす
チカは、3年の間に、ロードレースの本場フランスのチーム、パート・ピカルディに移籍。
チームのエース、ミッコらと共にツール・ド・フランスに参戦します。
今回のストーリーは、大きく「スポンサー契約」と「ドーピング疑惑」の2つの柱です。
スポンサーがいなくてはチームは存続できません。
綺麗事は言っていられないのは理解できるのですが、それでも、チカは納得できず、監督に楯突いてしまいます。
一方で、ライバルチームの若きエース、ニコラにドーピング疑惑が。
圧倒的な強さと、天真爛漫な性格のニコラ。
チカは動揺します。信じられない、信じたくない思い。
自分の勝利を掴みたい欲と、アシストとしてチームのエースの勝利に貢献するべきだという気持ち。
チカは、ミッコのために走ることが最善なのか、迷い、葛藤します。
その後のチカの決断が、なんとも彼らしいのです。
疾走感、爽快感のある文章で、グイグイ惹きつけられます。
ツール・ド・フランスは、世界一過酷な楽園。それでも走り続けるのです。
サヴァイヴ|スピンオフ的な短編集
「サヴァイヴ」近藤史恵
サクリファイス・エデンの続編というより、スピンオフ的な要素が強い、全6作品の短編集。
サクリファイス、エデンと長編だったので、続きが短編というのが、ちょっと物足りなく感じるかも。
もうちょっと続きが読みたいなぁと思うところで終わっていたり、ドキドキし始めたら終わってしまったり…。
今から読む方は、「スティグマータ」も手元に置いて、間髪おかずなだれ込めるように、準備しておくことをオススメします!
脇役たちの視点から語られるサイドストーリーで、より深く世界観を知る
エースの孤独、アシストの犠牲、ドーピングや故障への恐怖。
これまでのサクリファイスシリーズで語られなかった角度からのお話。
チカのストーリーだけではなく、1作目のサクリファイスに登場した、赤城と石尾の昔の話も。
サクリファイスを読んでいると、彼らがこのあとどうなるのかを知っているので…何とも言えない気持ち。
チカの同期で、次期エースと目された伊庭の視点からも。
強気な伊庭でも、「勝てるのか?」と怯えることもある…。
これまでチカには見せてこなかった一面を、短編を通じて知ることができ、それぞれの登場人物に親近感がわきます。
スティグマータ|堕ちた英雄の帰還。何が目的なのか?
「スティグマータ」近藤史恵
5年ぶりの新作「スティグマータ」が出る、と知ったとき、ナチュラルにこう思いました。
まるで、元日本代表のサッカー選手が、Jリーグで活躍しているって知ったときみたいな感じ。
そのくらい、チカの存在をリアルに感じてしまっています。
誰もが自分のイストワール(歴史・物語)の主人公
今回、チカは、バスクのチームで、エースのニコラを支えるアシストとして活躍しています。
そして、サクリファイスに登場した、日本のトップでかつて一緒に戦った伊庭が再び物語に戻ってきます。
冒頭、周囲を揺るがすビッグニュースが。
ドーピングで王者の座を追われ、全てのトロフィーを剥奪されたメネンコが復活しました。
伊庭も、メネンコと同じチーム・ラゾワルへ。
チカは、オランジュフランセに所属するアントニオ・アルギがメネンコに恨みを持っていると言われ、なにか事件を起こすのではないかと、行動を注視することにします。
常に客観的で、内省的なチカ。
自分の勝利を譲ってでもニコラに勝たせる。それがアシストの役割。
だけど、表彰台に立ちたいという野心がないわけじゃない…そんな人間くささもチカの魅力です。
そして、アシストに徹するチカは、その気持ちを理性で抑え込める誠実さを持っています。
先頭を走るチカと、後方のニコラとの会話「チカ、このまま君が行け」「ダメだ、君が行くんだ」に、涙腺が緩みます。
「イストワール」という言葉が出てきます。物語・歴史という意味。
誰もが自分のイストワールの主人公なわけですが、物語とは、誰かに読まれて、読んでよかった・価値があったと評価されたいもの。
チカは、アシストとして、エースを勝たせることで存在価値を発揮してきました。
チームを移籍するときも、その働きが評価されて生き残ってきたのです。それがチカのイストワール。
自らの失態で、イストワールを汚してしまった、過去のカリスマスター選手。
彼の復活の本当の目的は何なのでしょうか?
キアズマ|大学が舞台の、より親しみやすい番外編
「キアズマ」近藤史恵
こちらは大学が舞台。チカたちは登場せず、同じ世界の別の場所、というイメージ。
トッププロの世界ではなく、素人でも親しみやすいところに降りてきた感じです。
過去の傷を持つ、自転車部の臨時メンバーの青春ストーリー
岸田正樹は、大学入学早々に、自転車部の村上に怪我をさせてしまったことから、代打でロードレースに参戦します。
1年限定…ということで始めたものの、持ち前の才能と柔道で培った身体能力、闘争本能でメキメキと頭角を現します。
正樹には、柔道の不幸な事故で障害を負った、豊という親友がいました。
今でも、豊のケガは自分のせいだ、という罪の意識から逃れられない正樹。
自転車部のエースの櫻井は、関西弁で柄の悪いヤツなのですが、彼も、兄を自転車事故で失うという、辛い過去を背負っていました。
みんな、どこかに暗い過去を隠しながら、それでも走るのです。
彼らは、言葉ではなく、行動で感情を示します。
恐怖に打ち勝って、過去を受け止めて、なお走り続ける姿は美しい。
私はサクリファイスシリーズのおかげで本の世界に戻ってきた
個人的なことですが、私はサクリファイスシリーズには恩があるんです。
長男を出産したあと、本を読むという習慣がなくなってしまった時期がありました。
読書があんなに好きだったのに、本を開くことさえ億劫になって…。
そんな2010年末、当時の私としてはものすごく重い腰を上げて、「エデン」を読みました。
そんな覚悟を持って読み始めたのですが、めちゃくちゃ面白かったんです!
ページをめくる手が止まらず、リアルに震えるくらい。
このシリーズのおかげで、私は自分らしさを失わずにいられました。
子育てのバタバタに流された自分を、一瞬にして「あなた、そんな人じゃなかったでしょ」とぶっ飛ばしてくれました。
ただの子どものママとして埋没するのではなく、自分の好きなことは好きなままでいられました。
だから、「本を読むのってめんどくさい」とか「昔はたまに読んだけど、最近はご無沙汰」という方に、ぜひ「サクリファイス」を最初に手にとってほしい。
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ドンデン返しが好きな方には、七河迦南さんもオススメ。
表紙とタイトルのセンス、最後にグルンとひっくり返る衝撃、他にはない魅力です。
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