普通の人にはない、不思議な力を持っているというのに、世間から差別され、虐げられる魔導士たち。
ファンタジー小説のようで、実はマイノリティたちの戦いを描いた作品をご紹介します。
「真理の織り手」シリーズの舞台・ラバルタでは、魔導士の地位が低く、恐れられ、蔑まれています。
私だったら、魔導士のような不思議な能力があったら、すごい!って思うのに…。
架空の世界の話なのに、まるで現実世界の人種差別を見ているかのような感覚。
魔導士たちが、どのように理不尽と戦い、既存の価値観を覆していくのか、見届けましょう。
「魔導の系譜」を解説するよ!
「魔導の系譜」佐藤さくら|登場人物
「魔導の系譜」は、魔導士をはじめ、騎士や普通の民まで、多くの人物が登場します。
巻頭5ページにわたって、登場人物の名前が羅列されていますが、主要な人物にしぼってご紹介します。
正直、最初に名前だけ見ても、あまりピンとこないよね。
- レオン…魔導士の私塾を運営。魔導の力は三流だが、努力家で正確な技術があり、優しい性格。
- ゼクス…大きな魔導の素質がありながら、心を閉ざし学ぶことを拒否。レオンに預けられ、弟子になる。
- アスター…貴族の魔導士。〈鉄の砦〉でゼクスと出会い、親友になる。
ゼクスは、絶大な魔導の力を持った少年でしたが、精神的に未熟で、不安定でした。
レオンとの人間らしい師弟関係、アスターとの友情、そして野望。
「魔導の系譜」は、ゼクスの成長物語であり、マイノリティたちが立ち上がる下剋上でもあります。
「魔導の系譜」佐藤さくら|あらすじと内容
レオンは、田舎のリール村で、魔導士の私塾を開いています。
魔導士の最高機関〈鉄の砦〉に所属している元弟子の頼みで、ひとりの少年を弟子にとることになりました。
その少年・ゼクスは、大きな潜在能力を秘めながら、家族をラバルタの兵士に殺されたことで心を閉ざしているという…。
レオンが受け入れなければ、ゼクスは「処分」されるんだって…。
魔力は、うまく操らないと、感情に任せて暴走してしまい、人を傷つけることもあるので、とても危険。
大きな能力を持っているからこそ、自分でコントロールする方法を身につける必要があるのです。
どんな魔導士が教えても無理なら、人を傷つける前に殺してしまおう…ってわけだね。
はじめは頑なに学ぶことを拒んでいたゼクスでしたが、レオンの辛抱強い指導のおかげで、才能を開花させていきます。
いつか、魔導士の最高峰である〈鉄の砦〉を目指して、自分を馬鹿にした奴らを見返したい…。
やがて、ゼクスは力を認められ、〈鉄の砦〉でアスターと出会います。
「僕は魔導士が尊厳を傷つけられることなく、ひとりの人間としてちゃんと扱われる世界を望む」
アスターは、理想の世界のあり方を実現させるために、ゼクスを含め、多くの人の運命を巻き込んでいきます。
「魔導の系譜」で描かれる、レオンとゼクスの師弟関係
「魔導の系譜」は、レオンとゼクスの、愛憎が入り混じった師弟関係が見どころ。
ふたりの関係は、一言では言い表わせないよ…。
レオンは、誰よりも勤勉で、正確に魔力を操ることができ、知識も豊富。
ですが、生まれつきの魔導の才能に恵まれず、〈鉄の砦〉はおろか、魔導士ギルドにも所属できません。
魔導士であるというだけで、いわれなき差別を受けるのなら、少なくともその中では最高峰の〈鉄の砦〉に行きたい。
だけど、どう努力しても、越えられない壁。
自分にはない才能があって、野心を抱くことができるゼクスに対して、嫉妬心をなくしきれません。
一方、ゼクスは、魔導士であるだけでなく、流浪の民族セルディア人であるということ、文字の読み書きができないことで、二重・三重の差別に苦しみます。
ゼクスの反骨心は、こういう差別を受けてきたからこそ生まれたんだね。
そんな彼が、レオンと出会い、自分の力のコントロールの仕方を身につけ、師と仰ぐようになります。
いつか〈鉄の砦〉に呼ばれ、誰も蔑むことができないくらい力のある魔導士になる。
それはゼクスの野心であると同時に、レオンの望みでもあったはずなのに、〈鉄の砦〉に行くとき、小さな諍いから、ふたりはこじれてしまいます。
ゼクスは、レオンが自分に嫉妬しているなんて、そんな小さい人間だったなんて、思いたくなかったのかな…。
師弟愛なんてキレイな感情だけでなく、あまりにも人間らしいふたり。
さまざまな苦難を経て、再び再会するシーンは感動を誘います。
魔導師の力に対する差別と距離感
「魔導の系譜」で描かれる世界では、生まれつき「導脈」と呼ばれる器官を持って生まれた人だけが、「魔脈」につながることができ、魔術をあやつることができます。
人により、魔力の強さには差があり、先天的なもの。
どちらにしても「魔導士だ」というだけで、ラバルタでは最も身分が低いんです。
きちんと魔術を学べば、人に危害を加えずにコントロールできるのに…。
導脈をもたない普通の人間と、導脈を持って生まれた魔力のある人間。
肌や髪の色が人によって異なるように、「あなたはあなた、私は私」ととらえて、共存すればいいのに…客観的に見ると、そんな風に思います。
だけど、長い間差別されてきたんだもん。そんな簡単な問題じゃないんだよね。
現実世界だって、中世ヨーロッパの「魔女狩り」に象徴されるように、得体の知れないものに対する社会不安から、人道的にありえない大虐殺が起こった歴史があります。
今も根強く残っている人種差別が物語るのは、一度抱いた差別意識を払拭するのがいかに難しいかということ。
何をされるかわからない…という、人知を超えた力への恐怖が、ラバルタの民衆を魔導士差別へと駆り立てているのです。
現実でも、差別反対を訴えるデモがあるみたいに、魔導士たちが反乱を起こしてもおかしくないよね。
アスターは、「魔導士に対する偏見をなくしたい」と希望を掲げ、ほかの魔導士を巻き込んでいく…。
「真理の織り手」シリーズは、ファンタジー小説であるだけでなく、社会で軽んじられているマイノリティたちが、人権をかけて戦い姿を描いているのです。
「魔導の系譜」をはじめ、真理の織り手シリーズは全4作品
「真理の織り手」シリーズは、全4作品が刊行されています。
2作目以降は、レオンやゼクスはサブ的に登場するものの、同じ舞台で異なる主人公たちが描かれています。
複数の主人公たちの視点で、より世界観が深まっていきますよ。
作品名に、第何巻か書かれていないので、読む順番がわかりにくいのが難点。
順番通りに読みたい人のために、ここにまとめておくね!
中心となるキャラクターが異なるので、順不同で読んでも問題ありません。
続けて読むことで、「真理の織り手」シリーズの世界観を味わってくださいね。
「魔導の系譜」佐藤さくら|まとめ
「魔導の系譜」は、ファンタジー小説が好きな方も、そうでない方にもおすすめ!
「魔導の系譜」は、本格的な異世界ファンタジー小説。
架空の世界でありながら、マイノリティである魔導士たちが、自らの人権を勝ち取ろうと戦う様子は、現実社会にも通じるものがあります。
レオンとゼクスの、複雑な感情の入り混じった師弟関係は、親子のようでもあり、胸に迫ります。
アスターの選んだ手段は、正解とは言えないかもしれないけれど、世界の行方を見守りたいな。
シリーズ作品もあわせて読んでみてね!
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