小説

「ぼくのメジャースプーン」辻村深月|哲学とピュアな愛の物語

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傷つけられたふみちゃんのために、相手を縛る言葉の力を使って、犯人を追い詰める…。

これは、ぼくの戦いであると同時に、ピュアな愛の物語です。

どうしようもない悪意に対して、自分に胸を張れる制裁を、徹底的に考え抜いた小学校4年生の「ぼく」。

繊細で、潔癖で、正しさを求めるぼくの姿は、大人が読んでこそ、純粋に胸を打たれます。

哲学的な香りと、ファンタジー要素が絶妙にマッチした、辻村深月さんの傑作です。

ライト

「ぼくのメジャースプーン」を解説するよ!

「ぼくのメジャースプーン」辻村深月|登場人物

「ぼくのメジャースプーン」では、主人公の名前は明かされず、終始「ぼく」という一人称で語られます。

  • ぼく…主人公。言葉で相手を縛る能力を持っている。ふみちゃんの幼馴染。
  • ふみちゃん…物知りで口が達者で、クラスメイトの子どもっぽい振る舞いを許す、大人びた女の子。うさぎ惨殺事件をきっかけに、心を閉ざす。
  • 秋山先生…ぼくのお母さんの親戚。大学教授で、ぼくと同じ言葉の力を持っている。
  • 市川雄太…うさぎ惨殺事件の犯人。医学部の学生。自己愛が強く、他人を傷つけてもなんとも思わない。

ぼくは、相手を縛る言葉の力を持っていて、秋山先生はその力を「条件ゲーム提示能力」と呼んでいます。

Aという条件をクリアできなければ、Bという結果が起こる

言われた相手は、自分の嫌な結果から逃れようと、必死に条件をクリアしようとするのです。

シーア

秋山先生も、同じ能力を持っているんだって!

「ぼくのメジャースプーン」辻村深月|あらすじと内容

ふみちゃんは、大切にしていたうさぎが惨殺される事件があってから、心を閉ざし、言葉を失ってしまいます。

シーア

ひどい…どうしてそんなことを…。

犯人は、市川雄太。彼の罪は『器物損壊』。

動機は「面白いと思ったから」という、いわば愉快犯。

うさぎの命も、ふみちゃんの心も、物なんかじゃないのに、罪悪感も抱かず、あっけなく壊されてしまいました。

ライト

悪いことをしたのに刑務所にも入らず、また医学部に戻ろうとしている市川雄太は許せないよ。

ぼくは、ふみちゃんと幼馴染で仲が良いことが、自慢でした。

友達だけど、ちょっと憧れ。

誰よりも頭が良くて、賢くて、よくしゃべるし明るいし、男の子とも女の子とも仲が良くて…そんなふみちゃん。

だから、ぼくは、市川雄太と会って、言葉の力を使って、自分のしたことを心の底から後悔させてやろうと決めました。

ぼくのお母さんは、言葉の力をもう使わないでほしいと思っていましたが、ぼくの決意を知って、秋山先生を紹介します。

ぼくのお母さん

親戚に同じ力を持つ人がいるから、ちゃんと「先生」の言うことを聞いて、勉強してきて。
使うとしても、どう使うのか、しっかり教わって、決めなさい。

ぼくが、市川雄太と会うまでの1週間、ぼくと秋山先生の「授業」が始まりました。

「ぼくのメジャースプーン」は、罪と罰を考えさせられる

ぼくと秋山先生の会話では、善悪の判断基準、自分にとっての正義とは何かを問いかけています。

ぼくにとって、復讐という言葉は、なんだかしっくりきません。

ライト

そんなことをしても、ふみちゃんもうさぎも戻ってこないもんね。

ぼくの好きな漫画やアニメでも、身近な誰かを殺された相手はその仇討ちに相手を倒しに行こうとする。倒すって、つまりは殺すってことだ。はっきりした言葉にすると、ちょっとぎょっとしてしまうけど、ごまかせない。主人公が必殺技を駆使して倒した悪者たちは、多分その瞬間から息をしてない。その後がどうなったか描かれていることは少ないけど、きっと裏側では誰かがその死体を片付けてる。

ぼくが考えを深めるたび、鋭くなっていく言葉に、ドキッとしてしまいます。

シーア

フィクションの世界の「倒す」って言葉を深く考えたら、殺すってことだもんね…。

ライト

なんだか、具体的に想像するとウッてなるね。

相手にとって、いちばん強いインパクトを残す方法は、殺したり自由を奪うこと。

だけど、それって本当に正しいんだろうか?

ふみちゃんは、そんなことを望むだろうか?

正解なんてどこにもないのだけど、読み進めるごとに考えさせられます。

「ぼくのメジャースプーン」は、大人と子どもの哲学物語

シーア

「ぼく」は、最終的に、市川雄太にどんな言葉をかけることにしたんだろう?

ぼくは、自分の言葉に、生ぬるい諦めや、「こんなものでいいか」という妥協を許しませんでした。

下手な落としどころで折り合いをつけたくない、という強い意思。

誰のために、何を望むのか、自分はどうしたいのか、考え抜いた末の結論。

大人の想像を超えたところに、ぼくの答えがあったこと、きっと驚きつつも胸を打たれます。

ふみちゃんの言うとおり、人間は自分のためにしか泣けないかもしれないけれど、秋山先生はそれでもいいと語ります。

責任を感じるから、自分のためにその人間が必要だから、その人が悲しいことが嫌だから。そうやって、『自分のため』の気持ちで結びつき、相手に執着する。その気持ちを、人はそれでも愛と呼ぶんです。

言葉の力を使わなくても、いつかふみちゃんは自分で前を向ける、と信じています。

「ぼくのメジャースプーン」辻村深月|他作品との関連・読む順番

辻村深月作品は、登場人物に関連があります。

「ぼくのメジャースプーン」を最大限楽しむためには、順番を守って読むのがおすすめ。

ふみちゃんは、「凍りのくじら」にも登場しています。

秋山先生は、「子どもたちは夜と遊ぶ」にも登場していて、内容が深く関連しています。

ぼくが初めて秋山先生のところに行った日、出迎えてくれた女の子は、「子どもたちは夜と遊ぶ」に出てきた月子。

月子は、料理が苦手なのに、ぼくのためにマドレーヌを作ってくれました。(実はマドレーヌは伏線になっています)

シーア

「子どもたちは夜と遊ぶ」では、月子の実習のために、真紀ちゃんがマドレーヌを作ってくれたんだけど、今回は自分で作ったんだね。

秋山先生は「友人たちに、うさぎの事件のことを、具体的な内容は伏せて聞いてみた」と、月子や真紀ちゃん、恭司の意見を語っています。

ライト

彼らの性格を知っていると、「恭司ならそう言うだろうな」って共感できるよね。

こういった登場人物同士の関連があるのも、ファンにうれしいポイントですね。

「ぼくのメジャースプーン」辻村深月|まとめ

「ぼくのメジャースプーン」は、ぼくがふみちゃんを思う、純粋な愛の物語。

シーア

自分なりの正しさの基準を、考えさせられるね。

言葉の力は、もしかしたら「ぼく」や秋山先生のような特殊な人に与えられた能力ではなく、私たちみんなに備わっているのかもしれません。

あなただったら、自分の大切な人を守るために、どんな言葉を使いますか?

ライト

自分に置き換えて考えてみるのも、小説の楽しみ方のひとつだね。

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