📕「夜が暗いとはかぎらない」寺地はるな
— シーア🍀よくばりブロガー (@seer1118b) May 21, 2020
何気ないお話のひとつひとつが
なんでこんなに響くんだろう😢
何気ない日々を重ねる、ただそれだけのことなんだけど…
寺地はるなさんの小説は
いつも、どれを読んでも
この作品がいちばん好きかも…を更新してくれる🥺 pic.twitter.com/yI2knR562g
閉店が決まったあかつきマーケットには、「あかつきん」というマスコットキャラクターがいます。
突如失踪したあかつきん(の着ぐるみ)が、街のいろんなところに出没しては、人助けをしているという…。
あかつきん(と中の人)は、何をしようとしているんだろう?
「夜が暗いとはかぎらない」は、あかつきマーケットの周囲の人たちを描いた、小さなお話同士がからみ合う連作短編集。
葛藤を抱えながら、日々を精いっぱい生きる人たちが、それぞれ一生懸命で、心に明かりをともしてくれるような作品です。
「夜が暗いとはかぎらない」を解説するよ!
「夜が暗いとはかぎらない」寺地はるな|あかつきんのこと
大阪の片隅にある、小さなお店が集まる市場、あかつきマーケット。
6年前、来客数が減りつつあったあかつきマーケットを盛り上げるべく、マスコットキャラクター応募コンテストが開催されました。
あかつきんは、フラワーショップでパートをしている芦田さんが、息子の
顔は猫みたいだけど、耳が大きいのでネズミのようにも見え、いつも舌がチョロっと出ている、おとぼけ顔。
応募総数が少なかったからでは…なんて謙遜しているけど、自分が考えたキャラクターが選ばれるのは嬉しいんじゃないかな。
それからは、セールのチラシにも、福引のチケットにも、いつもあかつきんが描かれることに。
着ぐるみが作られて、お祭りやイベントのときには必ずあかつきんがやってきます。
「夢を壊してはいけないから」と、中の人を徹底して見せないのがこだわり。
でも、あかつきんの着ぐるみに入っているのは、八波クリーニングの息子、
来人は、家業を手伝う社交的な男の子だよ。
ですが、失踪する直前、あかつきんの中の人は、来人ではなかったのです。
だって、他ならぬ来人が、あかつきんの着ぐるみの手を引いて歩いていたから。
じゃあ、今、中に入っているのは誰なの?
「夜が暗いとはかぎらない」寺地はるな|あらすじと内容
あかつきんがいなくなったあと、街で目撃証言が相次ぎました。
ころんだ人を助けていたとか、公園でごみ拾いをしていたとか、夫婦喧嘩の仲裁(?)をしていたとか…とにかく人のためになる、善いことをしていると。
あかつきんのしっぽを引っ張ると幸せになれる、とまことしやかな噂も流れました。
YouTubeにあかつきんの動画をアップしてる人もいるよ!
あかつきマーケットと、神出鬼没のあかつきん、そしてその周囲で自分の人生を送る人たちが描かれています。
「夜が暗いとはかぎらない」寺地はるな|ゆるくつながる連作短編集
「夜が暗いとはかぎらない」は、大きく3つの章に分かれています。
冒頭とラスト、そして中盤に、ストーリーの中心を流れる、あかつきん関連のお話。
間の短編は、暁町や周辺で暮らす人ひとりひとりにフォーカスを当てています。
それぞれ、異なる環境にいる、立場もまったく違う主人公たち。
- 娘(結ちゃん)が幼稚園で「ちゃんとしてない」と悩む母親(白川さん)
- 妻と別居している、蝶が好きな男(時枝さん)が、同僚女性(葉山ひかり)にアプローチされる
- 悪事に手を染めていた男(恵吾)が、気弱な友人(真人)と、自転車屋(トキワサイクル)と関わる
- 姉が父の葬儀に振袖を着ると言い、昔を思い出す弟(真人)
- 雪の朝、バスが来ないので会社まで歩く、普段は接点のないふたり(山口さんと浦上くん)
- 同性の親友(笛木)に、友情以上恋未満のような感情を抱く男(浦上くん)
- いい子でいないといけないというプレッシャーを感じる少女(
美麗 ) - 孫(颯真)の言葉が遅いことを心配するおばあちゃん
- お盆にじいちゃん(トキワサイクル)の様子を見に来た高校生の孫(和樹)
例えば、ひとつの短編の主人公が、次の短編でもちらっと出てきたり、前の話で主人公の彼女だった人が次の主人公だったりします。
さっき出てきた人だ!とか思いながら読むの楽しいよね。
夫を亡くしてから、息子との関係性を見失った母親
あかつきんの生みの親である、フラワーショップ店員の芦田さんは、4年前に夫を亡くし、息子の柊とふたりで暮らしています。
夫がいなくなってからというもの、息子の気持ちがわからず、踏み込むこともできず…お互いのことをちっとも知らない状態。
たまたま会った来人に「最近、柊は元気?」と聞いてしまうくらい。
同じ家に住んでるんだから自分で聞いたらいいのにね。
柊は、就職先でうまくいかず、仕事をやめたあとは、アルバイトでなんとかしています。
どうやらメンタルによくない職場だったみたい…。
そんな芦田さんも、別の短編では、母の日に花を贈る人の接客をするなど、脇役として登場。
つまり、人の心の中には、一瞬すれ違っただけではわからないことがたくさんあるんですね。
人のかけらは、生きている人の一部になる
短編「バビルサの船出」は、「夜が暗いとはかぎらない」の中で私がいちばん好きなお話だよ。
お盆に、じいちゃんの様子を見にやってきた、高校生の和樹が主人公。
和樹の祖父は、自転車屋のトキワサイクルのおじいちゃんで、ほかの短編にも出てくるよ!
和樹は、中学の同級生だった大沢くんが、無免許で乗り回していたバイクの事故で亡くなったという知らせを聞いて、ショックを受けています。
大沢くんは、中学の時、和樹の絵を褒めてくれたけれど、グループが違いすぎてそれ以上関わることができなかった…。
静かに後悔している和樹に対して、じいちゃんが語る言葉があたたかいのです。
ばあちゃんはもうじいちゃんの一部になっている。ばあちゃんだけじゃなくて、今までの人生でかかわった人ぜんぶが、自分の一部だ。(中略)
死んだ人間は、天国にもどこにも行かん。死んだら小さい、たくさんのかけらになって散らばって、たくさんの人間に吸収される。生きてる人間の一部になる。とどまり続ける。
誰だって、他人のすべてはわからない
「夜が暗いとはかぎらない」で、終始一貫しているのは、自分と他人との境界線。
来人は、「あかつきんの着ぐるみをかぶったら、世界が違って見える」と言いました。
自分自身ではなく、あかつきんというキャラクターになりきって、動きが不自由な着ぐるみ越しに見る世界。
明るくて誰とでもうまくやっていけそうな来人が、どんな世界を見ていたのか…。
友だちだからと言って、すべてを共有したいとは思わない。
どんなに言葉を尽くしても、自分の気持ちは完全には伝わらないし、他人の気持ちだって同じこと。
親子だって、友達だって、すべてをわかり合うことはできないのです。
だけど、それは不幸でも絶望でもなくて、当たり前のこと。
自分の気持ちなんて誰もわかってくれない、って拗ねててもはじまらないよね。
どうやっても他人にはなれない、だけど、そばにいることはできる。それしかできなくても。
朝が明るいとはかぎらない、夜が暗いとはかぎらない
朝は、明るい1日のスタートという、ポジティブな印象。
反対に、夜は、「明けない夜はない」というように、ネガティブの象徴。
でも、本当にそうなのかな?
朝だから明るい、夜だから暗い…それ以上でもそれ以下でもなくて、決めつけないことが大切。
人間だって、同じじゃないかな。
この人はキレイだから人生に苦労なんてない、とか、誰も見ていないのに頑張っても意味がない、とか。
無意識のうちに、すりこまれた価値観は、自分を縛りつけるし、知らない間に人を傷つけているかもしれません。
「夜が暗いとはかぎらない」寺地はるな|まとめ
「夜が暗いとはかぎらない」は、あかつきマーケットとあかつきんを中心に、人と人とのつながりを描いた作品。
みんな、さまざまな葛藤を抱えながら、ひとりひとりの人生を頑張っています。
どんな人だって、自分なりの思いを持って生きてるんだもんね。
ドラマのような奇跡は起きなくても、ひとりのストーリーは、別の誰かの一部になって続いていくのです。
関連記事
寺地はるなさんの小説は、どれを読んでも、新しい感情を呼び起こしてくれます。
「大人は泣かないと思っていた」は、古い価値観をしなやかに変えていこうとする若者たちの連作短編集です。
本を読みたいけれど、かさばるから持ち運びにくい、置く場所がない…とお悩みの方には「Kindle」がおすすめ。
いつでもどこでも、片手で読めるから便利。
私は、防水のiPhoneをお風呂に持ち込んで、Kindleで読書しています。
日替わり・週替わり・月替わりでセールがあるほか、Kindle Unlimitedでは、月額980円(30日間無料)で読み放題のタイトルもあるので、チェックしてみて下さいね。