愛って本当に、世の中で言われるほど、キレイで尊い、よいものなのだろうか?
そんな疑問から生まれた物語をご紹介します。
著者本人が、自ら「正しい愛ってなんだよ、気持ち悪い」と表現する本書。
これは、キレイなだけじゃない愛を描いた、「とっておきの話」です。
「正しい愛と理想の息子」を解説するよ!
「正しい愛と理想の息子」寺地はるな|登場人物
「正しい愛と理想の息子」は、ふたりの男たちを中心に描かれます。
- 長谷眞(ハセ)…32歳。違法カジノで働いていたが、沖のミスを一緒にかぶって借金を返す羽目になる。
- 沖遼太郎…30歳。母性本能をくすぐるかわいい見た目。失敗ばかりで、ボヤ騒ぎを起こして200万円の借金を背負う。
ハセは、自分ひとりで生きていたほうが、要領よく器用に立ち回れるし、明らかに自由。
だけど、ハセは、沖に対して、友情とも愛とも言い難い、複雑な感情を持っていて、どうしても放っておけないのです。
「正しい愛と理想の息子」寺地はるな|あらすじと内容
ハセと沖は、違法カジノで働いていましたが、ヘマをして借金を抱えてしまいます。
元締めの灰嶋さんに、沖の失敗で被った損失200万円を返済しなくてはなりません。
ふたりは…というかハセは、沖のかわいらしい容姿を武器に、寂しい女をたぶらかして、偽物の宝石を売りつけ、金を稼ごうとします。
ところが、ようやく200万円が貯まったところで、騙した女に逆に騙され、金を奪われてしまう…。
この場面で「警察に言おう」って言い出す沖は、バカすぎてちょっと愛おしいよ…。
自分たちも悪事を働いてるのに、警察に頼れないでしょ!
どうにかして、早急にもう一度200万円を稼がなくてはならない…。
切羽詰まったハセは、商店街にたむろする老人たちを見て、「これからは年寄りだ」と閃きます。
騙すのは、年寄りだ。さびしさは、利用できる。
年寄りは、さみしいし、孤独で、人との会話に飢えていて、おおいにつけこむ隙がある…。
沖は老人ホームに雇われて内部に入り込み、ハセは老人ホームに入居したい年寄りたちと知り合い、仲介業者を装って金を騙し取ろうと画策します。
本当にうまくいくのかな?
誰にもハセと沖を断罪できない
人を騙すのはよくないけれど、ハセの生い立ちを見ていると、仕方ない部分もあったと思うよ。
ハセは、実は悪事には向いていないのに、生きていくために無理をしていたような気がします。
ハセや沖のことを、だらしない大人だ、いい年なんだからしっかりしなさい、というのは簡単。
だけど、そうやって断罪して、自分は間違ってもこんな人生は歩まないとたかをくくって、何が生まれるというのでしょう?
彼らは、生い立ちや環境やその他諸々、どうしようもない条件の中で、この道を選んでしまったのです。
正義ぶって家を訪ねてくる民生委員には、きっとわからないだろうね。
間違っているかもしれないけれど、そうするしかなかった…そんな彼らには、他の方法を選ぶ余地はなかったのです。
周囲の人のおかげで、なんとか道を踏み外さないでいられた
薬局をひとりで切り盛りしている未亡人のトクコは、事あるごとにハセを気にかけています。
トクコは「あんたこのあいだの子でしょ、やだやだちょっとそこ肘すりむいてんじゃないの。なにしたのあんた、やだやだちょっとこっちにおいで」とやかましく騒いでおり、心の底からうるせえババアだなと思った。
ハセいわく「ありがたくてうっとおしい」人ですが、8歳のときから、ケガをしたりお腹が減ると薬局の周りをウロウロしたりして、何かと助けられてきました。
トクコのおかげで、完全には道を踏み外さないでいられたのです。
詐欺でお金をまきあげてるから、道は踏み外してるんだけどね。
ハセは、老人をターゲットにしようと決めますが、簡単に信用して頼ってくる老人たちを目の当たりにして、心が揺らいでいきます。
お年寄りたちは、ハセのような悪巧みをしている人間に対しても、純粋な思いやりを持って接してくるから。
ハセが警察に捕まったり、女たちやお年寄りに告発されるのではないか?と、読みながら気が気ではありませんでした。
いつ、誰が警察に駆け込んでもおかしくなかった。
ハセの心境の変化も、このお話の見どころだね。
すべての愛は間違っていて、正しい愛なんてどこにもない
子どもを愛していない親なんていないとか、親に愛されたくない子どもなんていないとか、他人は正論ぶって言います。
だけど…愛しているからこそ、間違ってしまうこともある。
よかれと思って、思いを踏みにじってしまう。
沖と、年老いた母親の関係性。「すべての愛は正しくない」とひとりごちるハセ。
正解はないとはいえ、お互いの思いがすれ違うのは悲しいことだよね。
「正しい愛と理想の息子」寺地はるな|まとめ
ハセも沖も、これから詐欺なんてしなくても生きていけたらいいな…。
ハセも沖も、理想の息子なんかじゃなかったし、正しい愛なんて知らずに生きてきました。
だけど、彼らは生きてきた。それ以上でもそれ以下でもありません。
ふたりがどんな道を選ぶのか、見届けてね。
このタイトルを目にして、「気持ち悪い」と違和感を感じる人にこそ読んでほしいな、と願っています。
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「正しい愛と理想の息子」は、いろいろな意味で、寺地はるなさんらしくない作品。
普段は、あたたかみのある作風ですが、ときどき家族のあり方を強く斬りつけるような小説も書かれるので、目が離せません。
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