「陸王」は、ドラマ化もされた大ヒット作品。
竹内涼真くんが陸上選手の役で、話題になっていました。
ドラマも良かったけれど、登場人物たちの感情や、心情の変化がより伝わりやすいのが、原作の良いところ。
この記事では、「陸王」の魅力を解説していきます。
ぜひ原作本を手に取ってくださいね。
100年続く老舗の足袋屋が、足袋の技術を活かして「裸足感覚」のランニングシューズ開発に参入。
資金繰り、素材探し、大手シューズメーカーの妨害…様々な困難を、社員と協力者一丸となって乗り越えます。
伝統と情熱を感じられる、サクセスストーリー。
足袋業者がランニングシューズを作る? 新しい挑戦と苦難、そして成功
埼玉県行田市にある、100年続く老舗の足袋屋「こはぜ屋」が舞台です。
業態から考えても分かるように、足袋の売上は年々減少しています。
このままでは、そのうちこはぜ屋はつぶれてしまう…危機感を持った社長の宮沢は、新規事業としてランニングシューズ開発に乗り出します。
これまで培った、縫製などの足袋製造の技術を活かして、地面をつかむ感覚を追求した、「裸足感覚」のランニングシューズ。
とはいえ、お金もノウハウもないこはぜ屋が、簡単に作れるほど、ランニングシューズは甘いものではありません。
世界的大手シューズメーカー「アトランティス」を相手に、力の差が歴然とした戦いを強いられます。
ビジネス重視のいけ好かない大手企業に、零細企業の情熱がどこまで通用するのか…?
私だけでなく、多くの方がこはぜ屋を応援したくなるはず! 勝負の行方はどうなるのでしょうか?
ケガに苦しむ陸上選手、茂木裕人のサポートがしたい
ダイワ食品陸上部の、茂木裕人は、ひざのケガに苦しめられていました。
今のままの走り方では、治ってもまた再発してしまう…リハビリと、走法改革に取り組む必要がありました。
大学時代、箱根で同じ5区を走った、ライバルの毛塚は、どんどん先に行ってしまう。
走法を変えたとして、自分はまた前のように走れるようになるのか。
茂木には、アトランティスのサポートがついていました。広告塔としてアトランティスのシューズを履いて走る代わりに、シューズの供給や調整をするのです。
ですが、ケガでレースに出場が危ぶまれる茂木に対して、アトランティスはサポートを打ち切ろうとします。調子のいいときは群がってきて、故障したら離れていく…。
そんな茂木に、こはぜ屋はサポートを申し出ます。
実績のない、零細企業が作るランニングシューズ。果たして、陸王は茂木に選んでもらえるでしょうか?
こはぜ屋と、茂木裕人。置かれている状況が似ていると思いませんか?
大手企業やエリート選手とは違って、苦境に立たされながらも、泥臭く、地道な努力を続ける…
読んでいても、「こはぜ屋、頑張れ!」「茂木、頑張れ!」と力がこもります!
有名シューフィッターと、ソールの特許保持者が味方に
村野は、アトランティスに所属する、有名なシューフィッターです。
シューフィッターとは…選手の足型に合ったシューズを提案したり、走法のアドバイスをする人のこと。
村野は、アトランティスの、選手との信頼関係よりも、ビジネスを優先するやり方に嫌気がさしていました。
もっと、選手ひとりひとりに寄り添った仕事がしたい。会社のため、売上のためではなく、陸上選手のために働きたい。
村野は、宮沢の熱意に突き動かされて、こはぜ屋の協力者となってくれます。
陸王に足りないものは、ソール(靴底)でした。薄くて軽い、人間本来の地面をつかむ感覚を損なわないソール。
素材を探し求めて、出会ったのが、飯山という男でした。
飯山は、繭を加工した新素材「シルクレイ」の特許を持っています。しかし、自分が経営していた会社を倒産させてしまい、人目を忍んで暮らしていました。
従業員だったら、社長の方針に従うのは普通のこと。ですが、社外の人の心まで動かすのは、並大抵のことではありません。
それは、宮沢の熱意と、夢に共感したからこそ。中小企業だって、夢は大きく!
父と息子のぎくしゃくした関係が、「陸王」の開発を通じて変わる
宮沢の息子の大地は、地元の大学を卒業後、就職に失敗し、家業のこはぜ屋を手伝っていました。
社長の息子なのだから、こはぜ屋を継げばいいようなものですが、宮沢はそうはさせませんでした。
なぜなら、足袋屋は斜陽産業で、将来がないと思っているから。息子には、広い世界を見ていろんな経験をしてほしい…という父心でした。
大地は、就職先が見つかるまでのつなぎ、という中途半端な気持ちで、こはぜ屋での仕事に取り組みます。
案の定、ミスはするし、やる気はないし…宮沢はそんな息子の気持ちが分かりません。
面接でうまくいかず、不採用が続き、「オレってそんなに価値のない人間なのかな」とつぶやく大地。
そんな大地が、「陸王」の開発チームに加わったことで、変わり始めます。
ゼロから試行錯誤してモノを作り出す苦しみ、そして喜び。
仕事の面白さに気づいた大地は、こはぜ屋での働きっぷりも、面接への向き合い方も、次第に変わり始めます。
子どもの頃ならいざ知らず、成人した息子と父の関係って難しいものです。
就職活動をめぐる事情も、昔とは変わってきています。昔の感覚では反発されるだけ…。
親には甘えもあるし、距離が近すぎるので、他人の力が必要なのかも。自分も息子がいるので、肝に銘じます!
社員のチームワークで、困難を乗り切る!
こはぜ屋の社員数は、27名。4代目社長の宮沢にとっては、小さいときから親しんだ、まるで家族のような間柄です。
製造ラインのまとめ役、安田。縫製科の元気印、あけみさん。個性的な社員たちが、「陸王」プロジェクトチームのメンバーです。
ですが、最初からみんなが一丸だったわけではありません。
経理の富島は、新規事業に反対しています。先代社長の頃に、あわや倒産という憂き目にあっているからです。
「うちは足袋屋ですよ」「足袋だけじゃ、いけませんか」…ことあるごとに、宮沢を諌めてきます。
陸王にまつわるさまざまな困難を乗り越えて、よりいっそう社員たちの絆が深まっていくのも見どころです。
現代は、会社と従業員の関係もドライになってきています。
お給料がもらえればいい、と割り切ると、仕事はラクになるかもしれませんが、やりがいや情熱は失われてしまいます。
宮沢がこはぜ屋を、社員を大切にしているからこそ、みんなその気持に答えようとひとつになるんだと思います!
池井戸潤氏の王道! 勧善懲悪・サクセスストーリー
著者の池井戸潤氏は、地道に努力して、真面目に働く人々を描くのがとてもお上手です。
特に、中小企業の経営者を書かせたら、右に出るものはいません。社員たちの雇用を守り、資金繰りに頭を悩ませる、社長の姿です。
直木賞を受賞した「下町ロケット」もまさにそのパターン。さらにドラマ化も大ヒットしています。
池井戸氏は、元銀行マンでもあります。作品には、毎回と言っていいほど、銀行マンが登場します。
中小企業に融資を渋ったり、銀行の都合で態度を変えたりする、銀行マンの姿は、ご自身の経験から来られるものでしょう。
逆に、「倍返しだ!」のセリフで有名になった半沢直樹シリーズでは、銀行という組織と戦う、正義感あふれる銀行員を描かれています。(「オレたちバブル入行組」など)
池井戸潤氏の作品の最も支持されるポイントは、なんといっても「最後に正義が勝つ」という安心感、爽快感です。
コツコツ努力する人がバカを見て、金や権利の力でまかり通ろうとする者がいる現代社会。だからこそ、池井戸潤氏の作品が受け入れられているのだと思います。
「陸王」が愛されるのは、地道に働き、生活している庶民に、ジャパニーズドリームを見せてくれるから。
努力は決して裏切らない、誠実に仕事に向き合おう、という気持ちを思い出させてくれます。
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