雑誌記者の里見高広と、天才美形絵師の有村礼のふたりが、「腰の低いホームズと高飛車なワトソン」として、数々の事件を解決していく「帝都探偵絵図シリーズ」。
4作目は、怪盗ロータスと安西検事が主役です。
友情のあり方について考えさせられる、番外編とはいえないほど本筋と絡み合うストーリーです。
「怪盗の伴走者」三木笙子|怪盗ロータスの過去と現在に迫る4作目
シリーズ4作品目は、前作「人形遣いの影盗み」で、浅からぬ因縁を匂わせた、怪盗ロータスと安西検事がメイン。
高広と礼と同じように、彼らもかつては深い友情で結ばれた仲でした。
しかし、今は別々の道を歩み、むしろ敵対していると言ってもいい関係です。
彼らの過去に何があり、これからどうなっていくのか…?
怪盗ロータスは、盗みに入って失敗するという、彼らしからぬ騒ぎを起こします。
3つの短編を収録|おすすめは表題作「怪盗の伴走者」
本作では、表題作の「怪盗の伴走者」をはじめ、3作品からなっています。
短編から中編と言っていい長さの作品たちです。
導入部分では、「人形遣いの影盗み」のラストシーン直後の、安西の独白から始まります。
- 第一話 伴走者
- 第二話 反魂蝶
- 第三話 怪盗の伴走者
怪盗になる前、ロータスは、「蓮」と名乗っていました。
第一話「伴走者」と、第二話「反魂蝶」は、蓮と安西省吾のなれそめ、そして冒険譚を綴っています。
第三話は、怪盗と検事という、全く相容れない立場になった彼らの現在の姿です。
第一話 伴走者
安西省吾は、家庭の不和から、暗い少年時代を送っていました。
そんな時、米問屋に奉公している蓮に出会います。
蔵に忍び込んで、隠された金を探すという冒険を経て、彼らの絆はより一層深まります。
「ありがとう、省吾」
蓮がしゃがみこんで笑顔を見せた。
「おかげで助かったよ。君に会えて、僕は本当に運が良かった」
「蓮……」
「君なら僕と同じ速さで走ることができる」
蓮の言葉通り、信頼のおける友人となるふたり。
ですが、省吾は、あまりにも鮮やかで常人離れした蓮のやり口に、いつか蓮が自分を置いていってしまう予感がしていたのです。
第二話 反魂蝶
第一話「伴走者」から2年が経った頃、省吾の母は亡くなり、一人で暮らしていたある日。
蓮は知り合いの奇術師、一翔斎天馬の紹介で、鹿取という男の頼みを聞くことになります。
人の嫉妬や欲を逆手に取ったような企みに、蓮は奇術まがいの手で迎え撃ちます。
省吾は「人を羨ましいと思ったことがない」という蓮に、空恐ろしいような気持ちになります。
いずれ、省吾は蓮についていけなくなるだろう。
気持の上でか、能力においてか、それともその両方なのかもしれなかったが、省吾は蓮と共に走ることができなくなる。
それは、はっきりとした予感だった。
そのときの自分を、蓮はどんな目で見るのだろうか――。
第三話 怪盗の伴走者
語り部が高広にバトンタッチされ、何とも言えない安心感と、懐かしいような気持ちになります。
そう思ったのもつかの間、浅草に取材に来ていた高広の前に、唐突にロータスが現れ、凌雲閣という電気の広告塔に連れてこられます。
怪盗ロータスを逮捕するため、検事局は安西を主任検事に抜擢。
なんとしても、ロータスを自分の手で捕まえたい、という安西。
二人の間に過去に何があったのか、礼は聞きたがりますが、高広は遠慮してはっきりとは言えないでいます。
誰もがそれぞれに事情を抱えている。
ただ興味があるからというだけで、土足で踏みこむことに、高広はためらいを覚える。
何もかも明るみにさらけだして、一体、何になるというのだろう。
隠された真実を見つけだす能力が自分にあるとしても、それを振りまわすことは憚られた。
何かできるなら力になりたかったが、人が胸の奥底に抱いている想いを、なるたけそのまま大切に守りたいと思うのだ。
高広に対して、ロータスは「勘だよ。君がいれば悪いようにはならない気がする」 と言い、安西もまた「悪いようにはならない気がして――」と同じことを言うのです。
ロータスが予告した犯行現場に、高広と礼も招き入れられます。
友情とは? 絆とは? 考えさせられるラスト
成長し、怪盗ロータスとなった蓮は、きっと孤独だったのでしょう。
才能がありすぎる人間は、時として常人には理解できないものです。
結果として、ロータスはいちばん手に入れたかったものを、その手にしたといえます。
ロータスと安西の関係は、高広と礼のそれとは、近いようで全く異なります。
ロータスも、安西も、自分の選択に納得できているといいなと願うばかりです。
三木笙子さんの主義は、「ほっとした気持ちで読める小説」
作者の三木笙子さんは、デビュー当時から「仕事や勉強の後にほっとした気持で読むことができる小説」を目指しているそうです。
「優しくて暖かな雰囲気」「心地よい哀しみと快い切なさ」「読後感の良さ」の3つをご自身の主義として挙げていらっしゃいます。
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