小説

「水を縫う」寺地はるな|世の中の”普通”を捨てて自分らしく生きよう

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普通、当たり前、みんな同じ、女なのに、男だから、みっともない…世の中にはびこる、そんな言葉たち。

価値観の枠に閉じ込められて、息苦しい思いをしている人に読んでほしい作品をご紹介します。

流れる水のように、傷ついたり汚れたり、嵐のように怒ったりしながらも、ありのまま自然でいられたら…。

「普通」と定義された多数派に、どことなく抵抗を感じる人たちへのエールのような小説。

読み終わったあとは、清々しい涙とともに、人生を丸ごと応援してもらったような感動で満たされますよ。

個人的には、2020年暫定ベストノベルで、2021年本屋大賞を取ってほしいと願っています

ライト

「水を縫う」を解説するよ!

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「水を縫う」寺地はるな|登場人物

「水を縫う」は、大阪で暮らす松岡家の物語。

清澄が1歳の頃、父と母は離婚し、母・祖母・姉との4人暮らしですが、もうすぐ姉は結婚して家を出ることになっています。

  • 清澄…裁縫や刺繍が好きな高校1年生男子。芯を持っているしっかり者。
  • 水青みお…学習塾の事務職。かわいいと言われること、女の子らしいものが苦手。もうすぐ結婚する。
  • さつ子…市役所で長年働く、離婚後の松岡家を支える大黒柱。「やめとき」が口癖。
  • 文枝…さつ子の母で、清澄と水青の祖母。柔軟な思考の持ち主。
  • 全…元デザイナー。父親に向いておらず、離婚後は黒田の会社に住み込みで世話になっている。
  • 黒田…縫製工場の社長で、全の友人かつ雇用主。毎月松岡家に養育費を持ってくる。

ライト

黒田さんっていうのは、松岡家の人じゃないよね?

シーア

ん〜、厳密に言うとそうなんだけど、私は黒田さんも家族だと思うんだよね。

語り手のひとり、黒田さんは、家族以上に松岡家の一員として深く関わっています。

血のつながりがなくても、確かな絆でつながっている…そういうところもすごく、グッとくるのです。

「水を縫う」寺地はるな|あらすじと内容

「水を縫う」は、ひとりひとりにフォーカスした6つの作品からなる連作短編集。

「水を縫う」の6つの短編と語り手
  1. みなも(清澄)
  2. 傘の下で(水青)
  3. 愛の泉(さつ子)
  4. プールサイドの犬(文枝)
  5. しずかな湖畔の(黒田)
  6. 流れる水は淀まない(清澄)

清澄は、かわいいものや派手なドレスが苦手な水青のために、ウェディングドレスを手作りしようと決めます。

さつ子は「そんなん、やめとき」「素人が作ったドレスなんかみっともない」と言いますが、清澄は「やってみなわからんって」とやる気満々。

離婚した父親がデザイナーの道を志して挫折したこともあって、さつ子は清澄に同じ道を歩ませたくないのです。

水青のドレス作りがきっかけで、黒田のもとで暮らす全とも交流があり、家族の心の距離が縮まっていきます。

「水を縫う」寺地はるな|裁縫好きは女子力ではなく生活力

清澄は、学校で手芸好きをからかわれ、周囲から浮いています。

冒頭、清澄の独白に心をぎゅっと持っていかれるような気持ちになります。

調理や裁縫に長けているということは性別を問わず、生活力、と呼ぶべきではないだろうか。機械に強いとか、数字に強い、などもまとめて生活力だ。
それぞれが自分の得意分野の生活力を持ち寄って生きていくのではだめなのか。

シーア

だめじゃない、全然だめじゃないよ!

ライト

清澄にこう言わせてしまうほど、世の中の強制力を感じてるんだろうね。

清澄が、裁縫を好きであることは、女になりたいとかそういうことでは一切ないし、ましてや「女子力」なんて呼ばれるものでもありません。

そりゃ確かに、サッカーやマンガのような、普通の男の子が興味を持つこととは違うけれど。

別に悪いことをしているわけじゃないのに、「あの子変わってるね」と距離ができてしまうのは、よくあること。

だけど、数は少なくても、清澄を理解してくれる人は確実にいます。

シーア

家族だけじゃなく、学校にも、いろんな人がいるからね。

「水を縫う」寺地はるな|女の子らしいものが無理な水青

水青が、ヒラヒラしたスカートがはけなくなったのは、過去のつらい経験が原因。

痛々しいほどに、自分の日常からはみ出ることを「無理」と拒否する水青。

シーア

女の子なら、水青の気持ちに共感できると思う…。

水青が、清澄に自分の好みのドレスがどんなものかイメージを伝えるとき、これまで見ないふりをしてきた自分の気持ちと向き合います。

婚約者の紺野さんの言葉は、誰もがハッとするはず。

「伝える努力をしてないくせに『わかってくれない』なんて文句言うのは、違うと思うで」

傷ついた過去はなかったことにはできないけれど、今の自分なりの「かわいい」を見つけることはできるのです。

「水を縫う」寺地はるな|普通であってほしい母の気持ち

さつ子は、清澄と折り合いがよくありません。

裁縫や刺繍に興味を持つことで、学校で悪目立ちするのも嫌だし、父親の全のように、デザイナーになりたいなんて言い出して失敗するのも見たくない。

シーア

こういうと、ひどい母親みたいだけど、ただひたすら心配なんだよね…。

さつ子は、母親である文枝に「あんたには失敗する権利がある」と言われ、何でも自由にしてきました。

でも、自分はそうはなれないし、むしろ「子どもに関心ないの?」とすら思っています。

「お母さんはいつも『あんたには失敗する権利がある』って言うけど、私は失敗してほしくないもん。自分の子どもに」

親として、さつ子の気持ちもわかる。だけど、子どもの立場として、清澄の気持ちにも共感する。

ライト

どっちも間違いじゃないもんね。

客観的に読んでいると、さつ子のようにはなるまいと思うのに、現実の私は、さつ子以上に「子どもには普通であってほしい」と振る舞っている気がします。

だけど、誰にでも、失敗する権利があり、雨に濡れる自由がある。そんな言葉が胸に突き刺さります。

「水を縫う」寺地はるな|普通の人、普通の家族なんてどこにもいない

ライト

普通って、なんだろう?

「水を縫う」を読むと、「普通」の定義やあり方について考えさせられます。

ひとつ確かなのは、どこにも「普通の子」「普通の家族」なんていないということ。

この世で最も「普通」が重んじられる、学校という場所でさえ、いろんな子がいます。

シーア

人懐っこい宮多くん、石が好きな高杉くるみ…清澄と仲良くなれる子だって、きっともっといるはず。

ひとりの人間の中には、たくさんの顔があるもの。

あるときは、多数派と呼ばれる選択肢をとったとしても、別の一面では思わぬこだわりがあるかもしれない。

多数派を「普通」とくくってしまうことで、その人ひとりひとりの個性を見ないのは、とても乱暴で失礼なこと。

もっと言うなら、「普通」って思われていたいために、自分の趣味を隠している可能性だってあります。

そこまでして「普通」を守らなくちゃいけない…なんてナンセンスですよね。

この作品は、従来の価値観を打ち破って、自分の心のままに自由に生きていいんだよと教えてくれるのです。

「水を縫う」寺地はるな|書店員・読者の感想

「水を縫う」は、発売前から書店員さんの評判がすこぶるよくて、期待が高まっていました。

なぜ発売前に評判が立つのかというと、書店員さんにプルーフ(見本誌)を配布して、感想を募って、告知や販売の一助にしているから。

シーア

発売したばかりの本の帯に、書店員さんの感想文が並んでいるのは、そういうことなんだね。

そこで、書店員さんだけでなく、発売直後に「水を縫う」を読んだ方たちの感想をTwitterで集めました。

たくさんの方が、「水を縫う」を読んで、感動の声を上げています。

ライト

寺地はるなさんの作品、もっと広まってほしいな。

「水を縫う」著者の寺地はるなさんのコメント

Twitterで、著者の寺地はるなさんご本人に記事をご覧いただきました。

こうして反応していただけるのは、読書ブログやっててよかったと実感する瞬間です!

[jin-fusen3 text="これまで作者さんに頂いた反応をこの記事にまとめています。"]
My-book-history
私の読書遍歴と、読書ブログをやる理由。おもしろい作品を応援したい!私の読書遍歴と、私が読書ブログをやっている理由を書いています。同世代の方には懐かしいはず!本が好きな子どもが、本が好きな大人になるまで。創作ができる人は、自分に向き合える強さを持っています。創作をする人を、応援する立場でいたい。著者の方に見てもらいたい記事を目指しています。自分のブログは、大好きな本であふれさせたい!...

「水を縫う」寺地はるな|まとめ

シーア

「普通」なんて目指さなくていいから、みんなが自分らしくいられたらいいな。

「水を縫う」を読むと、固定概念にとらわれたくないと思っている自分だって、別の枠の中にいたんだと気づかされます。

自分の立ち位置や考え方によって、どの登場人物に共感するかは変わるはず。

男も女も、学生も母親もおばあちゃんも、みんなもっと自由でいい。

それぞれが自分が好きで得意なことを、「生活力」として活かしていくことが、世の中を生きやすくする最適解だと思うのです。

ライト

あなたがどんな感想を持ったのかも聞かせてほしいな。

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シーア
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