連作短編集という形式の小説がたまらなく好きです。
短いお話の中に、凝縮されたエッセンスが詰まっていて、それらが関連し合いながら進んでいくお話。
普通の短編集と違って、ひとつひとつのお話がつながっているのが特徴!
それぞれに異なる登場人物の語りで、世界観を掘り下げていくことができ、より深くテーマを味わえます。
ひとりの主人公の視点ではわからなかった事実を知ることも。
この記事では、そんな魅力たっぷりの連作短編集を、17作品ご紹介します。
いろんな本を読んできたシーアのおすすめの作品ばかりだよ!
連作短編集のおすすめ17選
読めば読むほど味わいが深まる、おすすめの連作短編集をご紹介します。
「阪急電車」有川浩
私は、中学・高校と6年間、えんじ色の阪急電車に乗って通学していたので、ひときわ思い入れがあります。
そんな阪急電車の中でもマイナーな路線、今津線をめぐる、心あたたまるストーリー。
宝塚から西宮北口まで往復する間、乗客たちがバトンリレーしていくよ。
登場人物たちは、みんな別々の暮らしをしているのですが、それぞれが線路のようにつながっています。
思いを断ち切れない人、自分の意見を言えない人、勇気を出して声をかけてみる人…。
ひとりひとりの思いが重なる、一期一会の物語です。
ただ、いくら関西人でも、電車に乗り合わせただけの初対面の人と、こんなにしゃべりませんけどね(笑)。
「骨を彩る」彩瀬まる
あなたは、大切なものを失ったことがありますか?
埋められない穴を感じながら日常を過ごしている方に、読んでほしい作品です。
そこはかとない孤独だったり、大切な骨が欠落しているかのような心許なさ、取り戻せない過去、もういない、かけがえのない人…。
時間が経っても、何かが解決するということはほとんどなくて、傷はいつまでも消えず、じわじわ抜けない棘のように残ります。
だけど、人は生きていかなくてはなりません。
痛いところに触れられると、最初は「触らないで」と思うのだけど、その手が温かくて、なでてもらっている間に痛みがやわらいでいく…。
そんな心地よさを感じる連作短編集です。
「眠れない夜は体を脱いで」彩瀬まる
「手が大好きなので、いま起きている人の手の画像をください!」
ネット上の掲示板のひとつの書き込みで、ゆるくつながる人たちを描いた連作短編集。
登場人物たちは、それぞれ違和感にも似たコンプレックスを抱えています。
ネットの掲示板に触れても、彼らの人生を左右するほどの大きな影響はないけれど…置かれている状況によって捉え方が変わったり、現実と向き合うきっかけになるのです。
自分で自分のことが受け入れられなくて、窮屈さを感じながら生きている…そんな人におすすめの作品。
「ツナグ」辻村深月
「ツナグ」と呼ばれる使者は、生きている人間の依頼を受け、死んだ人間と会わせることができる能力があります。
だけど、会わせられるのは、生きてる人も死んだ人も一回ずつだけ!
そういう決まりなんだね。
死者からは依頼することができず、待つことしかできません。
心があたたかくなったり、罪を晴らしたり、罪を背負ったり、前に進めるようになったり、一生後悔を抱えたり…。
「ツナグ」を通じて、生と死にまつわるいろいろな物事を考えさせられます。
特に、依頼者の目線で語られる4章と、「使者」の少年・歩美目線で語られる最終章が秀逸。
3時間ほどで一気読みできちゃうボリュームで、読んだあとは驚くほど心がすっきり!
2012年頃に読んだのですが、その年のいちばん読んでよかった1冊になりました。
「大人は泣かないと思っていた」寺地はるな
恋愛や結婚、家族のあり方など、「昔ながらの当たり前」を押しつけられ、傷ついている大人に贈りたい短編集。
主人公たちは、九州の田舎町で、自分たちの生きやすい環境を求めて、それぞれに戦っています。
男だから・女だからという差別や、「普通」のありかたを、しなやかに変えていく彼らを応援したくなりますよ。
閉鎖的で男尊女卑で、人の噂が好きで…そんな古い価値観は、私たちの世代で終わりにしたいな。
やるせなさを抱える、20〜30代の方に読んでほしい作品。
「夜が暗いとはかぎらない」寺地はるな
あかつきマーケットの周囲の人たちを描いた、小さなお話同士がからみ合う連作短編集。
閉店が決まったあかつきマーケットには、「あかつきん」というマスコットキャラクターがいます。
突如失踪したあかつきん(の着ぐるみ)が、街のいろんなところに出没しては、人助けをしているという…。
YouTubeに動画が上がっていたり、あかつきんのしっぽを引っ張ると幸せになれる、とまことしやかな噂も流れました。
あかつきん(と中の人)は、何をしようとしているんだろう?
葛藤を抱えながら、日々を精いっぱい生きる人たちが、それぞれ一生懸命で、心に明かりをともしてくれるような作品です。
「水を縫う」寺地はるな
普通、当たり前、みんな同じ、女なのに、男だから、みっともない…世の中にはびこる、そんな言葉たち。
「普通」と定義された多数派に、どことなく抵抗を感じる人たちへのエールのような小説。
個人的には寺地はるな作品の中でいちばん好き。本屋大賞を取ってほしい…!
主人公の清澄は、裁縫や刺繍が好きな高校1年生男子。
学校で手芸好きをからかわれ、周囲から浮いていますが、「好きなものは好き」と貫く強い気持ちを持っています。
「普通ってなんなん?」を世の中に問い、ありのままの自分でいることをまるごと応援してくれているような気持ちになる作品です。
「ななつのこ」加納朋子
本作のタイトルでもある「ななつのこ」は、作品中でも短編集として登場するよ。
19歳の短大生、入江駒子は、短編集「ななつのこ」を読み、作者の佐伯綾乃にファンレターを出します。
駒子の身辺を騒がせた「スイカジュース事件」を交えた、とりとめもない長い手紙。
ファンレターだから反応なんて期待していなかったのに、思いがけず返事が来たんだね!
作者からの返事には、詳しく知らないはずの事件の謎解き、いわば「解決編」が書かれていたのです…。
作中作の「ななつのこ」に出てくる、7つの短編にちなんで展開される物語なのに、だんだん現実になっていくのが、なんだか不気味でゾワゾワする!
コミカルで素朴で発想力豊かな駒子が、手紙を頼りに謎を追い求めていくのが、なんとも爽快なストーリーです。
「早朝始発の殺風景」青崎有吾
青春は、気まずさでできた密室だ。
青春時代の甘酸っぱさと、少し居心地の悪い気まずさ。
たとえば、始発電車で、あまり親しくない同級生とばったり出会う。
不器用な会話を通じて、小さな謎が生まれたり、ほぐれたり…そんな日常にひそむミステリー。
5つの短編は、すべて場面転換なしのワンシチュエーション、リアルタイムなストーリー進行で、テクニカルな面でも注目です。
「残り全部バケーション」伊坂幸太郎
溝口と岡田は、殺しとまではいかないけれど、人に言えないようなあくどい仕事に手を染める2人組。
いい加減で乱暴な溝口と、もうこの世界から足を洗いたい弱気な岡田。
コンビなのに、正反対なんだね。
溝口は、岡田のために、ボスである毒島に歯向かいます。
盗んだ車に積まれていた、大金の謎。虐待されていた子どもを救う方法。
どのストーリーも、単体でも楽しめる魅力がありますが、一気に読んでつながりを感じてこそのおもしろさ。
ひとつひとつの小さな事件を描いた短編たちが、伏線となって結末になだれ込む展開は、まさに伊坂ワールド!
痛快な読後感で、これまたやってくれたな〜!って感じだよ。
「あまからカルテット」柚木麻子
主人公たちは、女子中学・高校時代から仲良しの4人組。
女性にとっては大きな区切りである、30歳を目前にした、絶妙なお年頃です。
私も中高一貫の女子校に通っていたので、すごく親近感!
嫉妬も意地悪もない、ただひたすらに純粋な友情物語。
スパイスとして、各章においしい食べ物が登場します。
登場人物のひとり、由香子は料理研究家でもあるんだよね。
ときにはケンカすることもありますが、長年の付き合いだから、お互いを理解し合い、許し合える関係。
お互いの環境が変わっても、頼ったり頼られたりしながら、助け合っていける。
そんな女の友情が味わえる短編集ですよ。
「麦本三歩の好きなもの」住野よる
主人公の
本人は、天然って言われると怒るんだけどね。
謝るときや、真面目なシーンで、つい噛んでしまう挙動不審さも、また愛嬌のひとつ。
実在の人物じゃないのはわかっているのに、近所の図書館に三歩がいるような、不思議なリアリティがあります。
三歩みたいに、好きなものへの愛を熱く語って生きていけたら、きっと楽しそうだよね。
そこにはただ、いつもどおりの日常がある…言葉にするとそれだけなのに、なんだか当たり前の日々が愛おしく感じられます。
好きなものがたくさんあると、毎日はきっと楽しい。
そんなシンプルな事実を思い出させてくれる作品です。
「もういちど生まれる」朝井リョウ
19~20歳になる過程の、繊細なお年頃を描いた作品。
それぞれが、葛藤やプライド、人と比べて羨ましがる気持ち、思うようにいかない現実、将来への不安…いろんな思いを抱えて生きています。
朝井リョウさん、こういう胸をえぐるような文章、うまいなぁ…。
登場人物たちのつながりは、友人だったり、バイト先が同じだったり、兄弟・双子など。
ひとりひとりが、自分の殻をやぶるきっかけをつかむまでのストーリー。
楽しすぎて切なくて泣きたくなるような、そんな時間と仲間。
今振り返ると、なんて貴重だったんだろうと痛感します。
最後まで読んだあと、冒頭の合宿シーンをもう一度読み返すと、また違った印象ですよ。
「マツリカ・マジョルカ」相沢沙呼
マツリカシリーズは、相沢沙呼さんの代表作で、「日常の謎」にフォーカスした学園青春ミステリー。
学校近くの廃ビルに住む、妖艶な魅力を持つ女子高生(?)、マツリカ。
友達がおらず、クラスになじめない、冴えない男子高校生、柴山祐希。
祐希は、マツリカに「柴犬」と呼ばれ、パシリ扱いされつつも、学校で起こる謎を解明するために、徐々に他人と関わっていきます。
シリーズを重ねるごとに、祐希は成長していくし、マツリカさんとの関係性も変わっていくよ!
3作品刊行されており、本作「マツリカ・マジョルカ」と、2作目「マツリカ・マハリタ」は連作短編集、3作目「マツリカ・マトリョシカ」は長編です。
「七つの海を照らす星」七河迦南
児童養護施設「七海学園」では、それぞれの事情で家庭で暮らせない子どもたちが生活しています。
「学園七不思議」と呼ばれる、ちょっと怖くて不思議な言い伝えがあります。
よくある迷信みたいなものじゃないの?
それだけとは言い切れない出来事が起こるんだよ!
保育士の北沢春菜、児童福祉司の海王さんが、子どもたちを取り巻く問題を解決する中で、謎の真相に触れていきます。
7人の少女をめぐる謎は、ひとつひとつがつながって、思いがけない真実に結びつく…
最後にすべてつながる爽快感は、他の作品にはない魅力です。
「人魚は空に還る」三木笙子
雑誌記者の里見高広と、美形絵師の有村礼が活躍する、帝都探偵絵図シリーズの1作目。
いわば、明治時代版、変わり種のシャーロック・ホームズ。
ふたりの身の回りで起こるささやかな謎を解決していきます。
表題作「人魚は海に還る」を始めとした5作品を収録し、作品ごとに世界観が深まっていきます。
特に2作品目「真珠形成」で、犯人の正体にたどりついた高広が語る言葉に、ズドンと胸を突かれます。
「(前略)真珠の成り立ちを教えてもらいましたね。その中心には異物があって、それを覆うようにして真珠はできるんだと。逆に言えば、その異物がなければ美しい真珠はできない。人だって同じようなものだと思うんです。馬鹿ばっかり繰り返すし、しょっちゅう間違ってばかりです。でも時間がたてば、そういう馬鹿や間違いが核になって真珠みたいな人間になるかもしれない」
「自由なサメと人間たちの夢」渡辺優
全7作品のうち、ラストの2話だけがつながっている、変わり種の連作短編集。
作品に共通するのは、危うい均衡をギリギリのところで保ちながら、それでもこの世界に光を見出そうとするところ。
キャバクラ嬢の鈴香が、サメに語りかけるシーンは胸がギュッと痛みます。
「サメ」
私はサメに話しかける。
「サメ、私を救って」
希死念慮だったり、夢に取り込まれそうになったり、サメに救いを求めたり…ファンタジーのような、ホラーのような、不思議な感覚の物語です。
連作短編集は、つながり合うストーリーが最大の魅力
連作短編集、読んでみたくなったでしょ?
長編よりもライトに楽しめて、短編よりも各話のつながりがある、連作短編集。
普通の短編と異なるのは、ストーリーにリンクする部分があったり、最後にすべてが明らかになる満足感があるところ。
ひとつひとつが独立した短編としても楽しめるので、スキマ時間に少しずつ読みたい方にもおすすめです。
いろんなタイプの作品があるから、気になるものを見つけてみてね。
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