自分で自分のことが受け入れられなくて、窮屈さを感じながら生きている…
そんな人たちが、真夜中にネット上の掲示板を通じて、静かにつながっていきます。
「手が大好きなので、いま起きている人の手の画像をください!」
一生つきあっていく自分自身なのに、なんとなく好きになれない…そんな葛藤を抱える人に読んでほしい作品をご紹介します。
登場人物たちは、それぞれ違和感にも似たコンプレックスを抱えています。
ネットの掲示板に触れても、彼らの人生を左右するほどの大きな影響はないけれど…置かれている状況によって捉え方が変わったり、現実と向き合うきっかけになるのです。
「眠れない夜は体を脱いで」を解説するよ!
この記事には多少の引用やネタバレを含みます。まっさらな気持ちで読みたい方はお気をつけください。
「眠れない夜は体を脱いで」彩瀬まる|あらすじ・内容
「眠れない夜は体を脱いで」は、ネットの掲示板のひとつの投稿を介してゆるくつながる連作短編集です。
- 小鳥の爪先
- あざが薄れるころ
- マリアを愛する
- 鮮やかな熱病
- 真夜中のストーリー
登場人物たちは、ネットの掲示板に書き込まれたひとつのスレッドを見ています。
「手が大好きなので、いま起きている人の手の画像をください!」
この投稿に対する彼らの反応はそれぞれ。
自分の手の写真をアップしたり、やつあたりでひどいことを書いたり、なぐさめようとしたり…。
ネットの世界で、男女や役割を脱いだ、ただのひとりの人間になることで、本質の姿になるのです。
「眠れない夜は体を脱いで」彩瀬まる|5つの連作短編集
「眠れない夜は体を脱いで」の短編たちを、ひとつひとつご紹介します。
「眠れない夜は体を脱いで」彩瀬まる|小鳥の爪先
高校生の
むしろ、容姿で過剰に期待されて、「付き合ってみたらたいしたことなかった」と勝手にガッカリされたり、男友達からも妙に警戒されたり、ロクなことがないのです。
贅沢な悩みに思えるかもしれないけど、わかる気がする。
彼女にふられたあと、図書館通いでよく話すようになったゆかり先生が、和海にかけてくれる言葉が心に残ります。
「これからどんどん楽になるよ。息抜きしたり、自分を作り変えたり、そういう力をあんただけじゃなくて周りも手に入れて、優しくなるから。あと少しだけがんばって」
「眠れない夜は体を脱いで」彩瀬まる|あざが薄れるころ
ずっとショートカットでパンツスーツ…女性らしいことが苦手で、違和感を覚えてきた真知子は、50歳を過ぎてから合気道をはじめました。
真知子にとって、道場は居心地のいい場所だよ。
年齢も性別も超えて、ひたすらに鍛錬を重ねて技を磨く。
真知子は、世間の普通とは違うけれど、きれいな服を着たり化粧をするよりも、そんなやり取りの中で満たされるのです。
女性だから、もう中年だから…という役割の枠に押し込められず、そのままでいられることは幸せだと思います。
最後は、友情と恋の中間みたいな、新しい関係の始まりを予感させるよ。
「眠れない夜は体を脱いで」彩瀬まる|マリアを愛する
香葉子は梶くんと付き合っていますが、元カノのマリアが気になって仕方ありません。
梶くんが撮影・演出・監督したショートムービーに出演していた、ミステリアスな美女の斎藤マリアは、不慮の事故で亡くなりました。
マリアはかわいそうだけど、きれいな思い出ばかりの元カノって太刀打ちできそうにないよね。
ネタバレですが、マリアは幽霊になって香葉子のもとに現れます。
マリアの心残りを知ると、キレイな思い出のまま死ぬよりも、どんなに傷ついたり幻滅しても生きていたい、生きるべきだ、と感じました。
たくさんのファンが夢みる女や、最強の元カノになるよりも、マリアは死にたくなかったと思うよ。
「眠れない夜は体を脱いで」彩瀬まる|鮮やかな熱病
本藤は、典型的な昭和の価値観を正しいと思っているおじさん。
- 女は適齢期に結婚するべきだし、家族のために尽くすべき。
- 中年になって、役に立たない趣味を始めるのはみっともない。
- 男が専業主夫になるなんて、病気などの事情がない限りはありえない。
こんなことばっかり言ってるから、娘にも嫌われるんだよ…。
私は読んでてすごくイライラしたよ!
妻や娘、親友、勤務先の部下など、本藤の周囲にいる人たちの行動が、彼の頭の固さを打ち砕いていきます。
男女っていう役割を脱いで、ただの対等な大人同士として、尊重しあえる関係を作りたいんだと思います。
「眠れない夜は体を脱いで」彩瀬まる|真夜中のストーリー
幸鷹は、17歳の少女「月子」としてオンラインゲームをプレイしています。
ゲーム内の彼氏、昴に「俺と実際に会ってくれないか」と言われ、興味本位で会いに行くことに。
会ってしまったら、月子のプレイヤーが男だってバレちゃうよね。
幸鷹は、月子でいる間だけは、素直に世の中を楽しみ、喜ぶことができました。
月子の視点で世界を見ることで、新しい扉を開いたのです。
昴のプレイヤーは、月子と昴を題材にした小説を書きたいと言います。
ネット掲示板に「手を見せてください」と書き込んだのは、月子に言葉を借りた幸鷹でした。
たとえネット上でも、自分の素のままでいられる場所はとても貴重。
ひとつ居場所があれば、生きにくい現実も、受け入れられるような気がするのです。
「眠れない夜は体を脱いで」彩瀬まる|まとめ
「眠れない夜は体を脱いで」は、性別や年齢、役割の殻を破っていく物語。
自分に自信がない、っていう人に読んでほしいな。
他人から見たら、取るに足りないことかもしれないけれど、自分で自分が嫌い…そんな思いは誰しもあるはず。
この作品が、自分を解放してあげるきっかけのひとつになればいいなと思います。
自分でいることが辛くなったら、体を脱ぐ…っていう逃げ道があると思うと、少し楽になるかもね。
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