どんな人にも、気持ちが疲れてしまって、もう何も考えたくない…というときがあるはず。
そんなときに読むなら、穏やかであたたかな世界に浸れる本がオススメ。
大きな出来事や事件はないけれど、ただただ心が落ち着いて癒される…そんな小説をご紹介します。
誰も悪い人がいなくて、誰も死なないお話。
深い感動とじんわりとしたあたたかさが染み渡る作品です。
「それからはスープのことばかり考えて暮らした」のあらすじ
路面電車が走る町、月舟町。
主人公は、仕事を辞めて無職になった青年、オーリィくん。
アパートの大家さんこと「屋根裏のマダム」に、苗字が「大里」だからオーリィくんと呼ばれています。
オーリィくんは、隣町の映画館「月舟シネマ」に足繁く通い、商店街のはずれのサンドイッチのお店「トロワ」に惚れ込みます。
オーリィくんのアパートからは、協会の十字架が見えます。
情景が美しくて、まるでこの小説そのものが映画を見ているみたい。
あたたかくて、穏やかで、ゆったりと流れる時間。
イライラ・ギスギスした、ストレスフルな生活を癒してくれるような、そんな静かな力を感じるのです。
おいしいサンドイッチのお店「トロワ」の店主と息子
アパートの近くにある、おいしいサンドイッチのお店「トロワ」。
オーリィくんは、トロワに通う中で、店主の安藤さんと、息子のリツくんと親しくなります。
安藤さんは、サンドイッチを作る天才だけど、機械音痴で真面目なアナログ人間。
リツくんは、賢くて大人びた小学生。
父親に携帯を買ってもらおうとあの手この手で説得したり、家出をしてオーリィくんの家に上がり込んだり、意外と行動派なんです。
やっと携帯を買って、オーリィくんにたどたどしいメールを打ってくる安藤さんがかわいい!
安藤さんの奥さん、つまりリツくんのお母さんはいません。
そして、安藤さんは、教会に通ってお祈りをしているようなのです。
なぜお母さんがいないのか、思慮深いオーリィくんはあえて聞きません。
ふたりとの関係は、オーリィくんの周囲を少しずつ変えていきます。
月舟シネマに通う理由は、好きな女優さんがいるから
オーリィくんは、路面電車に乗って、隣町の映画館「月舟シネマ」に通っています。
同じ映画を25回も見るほどに…!
それは、チョイ役で出てくる女優さん、「松原あおい」さんが好きだからなのです。
昔の映画のリバイバル上映だから、今は松原あおいさんはきっともっと年を取っているはず。
だから、決して交わらない、叶わぬ恋…?なんです。
松原あおいさんは、主演女優になるような、有名な人ではありません。
様々な映画に、ほんの数秒、エキストラのように登場するだけ。
でも、オーリィくんは気になって仕方がなくて、隣町で松原あおいさんの映画が上映していると思うだけで、いても立ってもいられないんです。
いくつもの人生がとけあった、名前のないスープ
特に大きな事件が起きるわけではなくて、淡々と日常が流れていきます。
それなのに、どうしてか、日々の生活が愛おしくなるようなきらめきを持っています。
オーリィくんは独身で、デートをする相手もいなくて、昔の映画に出てくる女優さんくらいしか好きな人がいないけれど、ちっとも孤独ではありません。
マダムも、安藤さんもリツくんも、このお話に出てくる人は、少しずつ家族が欠けています。
明るく暮らしていても、心の奥底には、喪失感を抱えています。
それは、見ようによっては不幸に映るかもしれない…けれど、決して悲観していません。
だって、血のつながりはなくても、こうして一緒にサンドイッチを食べて、スープを飲んで、楽しく過ごすことができる…。
名前のないスープのことばかり考えて暮らす
オーリィくんは、サンドイッチに合う、おいしいスープを作るため、ある人にレシピを教えてもらいます。
食べる人が、それぞれ違う感想を言う、なんともいえない味わいのスープ。
母親を覚えていないはずのリツくんに、「おふくろの味」と言われます。
そして、レシピをもとに忠実に作ったはずのスープが、だんだんオーリィくんの味になっていくのです。
レシピを教えてくれた人には「私の味と違うのね」「これはもうあなたのスープなのよ」と言われます。
いくつもの人の気持ちや、失った思い出が、スープにはとけあっている…それって、人生そのものみたいだと思いませんか?
月舟町シリーズの関連作品
実は、月舟町を舞台にした作品は、三部作あるんです。
加えて、リツくんが主役のスピンオフ的作品も。
- つむじ風食堂の夜
- それからはスープのことばかり考えて暮らした(本作)
- レインコートを着た犬
- つむじ風食堂と僕(スピンオフ)
映像化もされています。
「それからはスープのことばかり考えて暮らした」吉田篤弘|まとめ
冬の日に飲むスープみたいに、あたたかさがじんわり染み渡る、そんな物語です。
大きな事件が起こるわけではなく、淡々と進んでいく中に、大切なものが隠されています。
一言では表せない魅力的な作品、ぜひ読んで体感してくださいね。
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