「蜂蜜をもうひと
匙 足せば、たぶんあなたの明日は今日より良くなるから」
お守りみたいに大切にしてきた言葉に導かれるように、蜂蜜作りに関わっていく。
誠実さを武器に、自分の人生を、自分のために切り開いていくお話をご紹介します。
主人公は、仕事を辞めて住み慣れた街を離れ、恋人の故郷である「朝埜市」という田舎に移り住みます。
すんなり彼氏と結婚することもできず、なんだか危なっかしいスタート。
碧の選んだ道は、おとぎ話のように「めでたしめでたし」とはいかないけれど、きっと彼女なら大丈夫だと思えるのです。
「今日のハチミツ、あしたの私」を解説するよ!
「今日のハチミツ、あしたの私」寺地はるな|登場人物
「今日のハチミツ、あしたの私」は、主人公の碧を中心に描かれるストーリー。
塚原碧 …主人公。中学生のときいじめられた過去を持つ。カフェチェーンに勤めていて、料理が得意。安西渉 …碧の彼氏。苦手なことや怖いことから逃げがちで、仕事が長続きしない。絵を描いている。
安西の故郷である朝埜市に移ったあと、いろいろな人と出会います。
ここでは主要な登場人物を紹介するよ。
- 黒江さん…クロエ蜂蜜園を運営。目つきが悪く、無駄に怖い。
朝花 …黒江さんの娘。元妻が親権を持っているが、突然訪ねてきた。- あざみ…スナックあざみのママ。碧にメニュー開発を依頼。
- 三吉さん…徘徊癖のある父親を介護している。碧にアパートを紹介してくれた。
「今日のハチミツ、あしたの私」寺地はるな|あらすじと内容
碧は、中学生の頃、いじめられて拒食気味になり、家族からも大切にされなかった過去がありました。
そんなとき、ずけずけと物を言う見知らぬ女性に、「あさのはちみつ」と書かれた蜂蜜の小瓶をもらいます。
碧にとっては、大切な思い出で、ターニングポイントなんだね。
それから、きちんとご飯を食べて、自分なりに生活してきて、16年が経ち…碧は30歳になりました。
恋人の安西が、例によって仕事を1日で辞めて帰ってきた日、「地元に帰ろうと思う」「碧と離れたくない」と、なかばプロポーズのようなことを言う…。
碧は、仕事を辞めて、朝埜についていくことにしました。
仕事を辞めるなんて、人生の大きな転機だよね。
ですが、安西は父親に碧のことを一切話しておらず、結婚を許すどころではありません。
それどころか、蜂蜜園を営んでいる黒江から、地代を回収してこいと命令されます。
碧は、黒江さんに養蜂を教えてもらい、指導料としてお金を払って、それを安西(父)への地代として回収することに。
碧、なかなかやるじゃん!頭いい!
碧は、蜂蜜園の手伝いをすることで、新しい自分を見つけていくのです。
優柔不断ではっきりしない安西にイライラ
安西、はたから見てるとめっちゃイライラするわ…!
安西は、傷つきやすくて、ちょっとしたことで不機嫌になって…どうしようもない、まったくもって幼稚な男。
だけど、そんな安西のことを甘やかして、許してきてしまったのは、他でもない碧なのです。
碧の立場からすると、もっと安西を責めてもおかしくないよね。
碧は、本来、彼氏の地元についていったはずなのに、結婚を約束してくれるわけでもなく、宙ぶらりん。
「安西渉の妻」として移住してきたならともかく、それすらもおぼつかない状況。
普通に考えて、30歳独身女性が、右も左も分からない土地で、一から人間関係を築くのは、なかなかハード。
ですが、碧は、想像以上のたくましさで、さまざまな人と出会い、少しずつ自分の居場所を獲得していきます。
おそらく、安西よりももっと、朝埜の地になじんでいる…。
安西にとっては、碧が楽しく朝埜ライフを満喫しているの、複雑な気持ちだったのかな…。
「今日のハチミツ、あしたの私」寺地はるな|自分のために人生を生きよう
碧は、安西を責めずにいられるのがすごいよ。
彼氏のために仕事を辞めた、彼氏のために住む場所を変えた…。
碧には、いくらでも安西の責任を問うことができました。
だけど、碧はそうはしませんでした。
あくまでも、安西と一緒にいたかった自分のために、仕事を辞め、朝埜に移り住んだのです。
自分の人生の舵取りを、安西にゆだねなかった碧は、とても立派。
「明日、人生が終わるとしたら」っていう、安西の問いかけが意味深だよ。
明日、人生が終わるとしたら、自分のために生きたい。
「誰かのために」「あなたのために」は、決して崇高な使命感なんかではなく、重い足かせになります。
それよりも「自分のために」生きている方が、ずっと健全で頼もしいと、教えてくれる作品です。
「今日のハチミツ、あしたの私」には、心に刻みたい名言がいっぱい
「今日のハチミツ、あしたの私」には、冒頭のセリフだけでなく、ずっと心に刻みたい名言がたくさんあります。
ここでは、一部を抜粋してご紹介します。
「今日のハチミツ、あしたの私」の世界を感じてくれたらいいな。
あなた自身が、あなたを大事にしてないから。あなたがあなたを嫌っているから。だから周りの人はみんな、ますますあなたを大事にしないし、嫌いになる。こいつはそういうふうに扱ってもいいんだって思われてしまう。
「今日のハチミツ、あしたの私」寺地はるな|P11 (角川春樹事務所)
冒頭のセリフとともに、蜂蜜の小瓶をくれた女性が、碧にかけてくれた言葉。
自分を大切にしていないと、周囲からも軽んじられて、ないがしろにされる…。
いじめられて傷ついた中学生、しかも初対面の女の子にかける言葉としては、あまりにもストレートですが、それでも碧は救われました。
そのときもらった「あさのはちみつ」というラベルのついた小瓶を、30歳になっても大事に持っているくらいだから。
わたしもう30歳なのね。その年齢で、人見知りなんですーとかって、そういうのを言いわけにつかうのはどうなのかなって思うから。
「今日のハチミツ、あしたの私」寺地はるな|P161 (角川春樹事務所)
自分の居場所があらかじめ用意されてる人なんていないから。
「今日のハチミツ、あしたの私」寺地はるな|P162(角川春樹事務所)
どちらも、あざみさんと
朝花は、高校生らしく、将来の夢や親との関係に悩んでいます。
碧自身も、人間関係で悩んできたから、朝花の気持ちがわかるのです。
碧だって、最初から誰とでも仲良くなれる性格じゃなかったもんね。
本当は、この言葉を、朝花ではなく安西に言ってやりたかった…そんな後悔もありながら。
碧が、行動したからだよ。碧の良いところがその人たちに伝わったからだよ。全部、あんたが自分の手で勝ち取ったもんだよ。
「今日のハチミツ、あしたの私」寺地はるな|P197 (角川春樹事務所)
親友の真百合が、朝埜まで会いにきてくれたとき、碧にかけた言葉。
碧は、自分はラッキーだったと語りますが、置かれた場所で努力をしたからこそ、手に入れた居場所なのです。
「彼女が天使でなくなる日」に碧のハチミツが登場
寺地はるなさんの新刊「彼女が天使でなくなる日」では、碧の後日談を垣間見ることができます。
「ネットで買った」として、クロエ蜂蜜園のハチミツが登場するのです。
オンラインショップ、うまく行ってるんだね!
過去作品同士の関連を見つけると、懐かしい友達に再会したようなうれしい気持ちになりますね。
「今日のハチミツ、あしたの私」寺地はるな|まとめ
碧の選択は、不器用だけど誠実だよね。
たとえば、事前に安西と婚約しておけば、自身の正当性をアピールすることもできるし、もっとうまく立ち回れたでしょう。
だけど、碧はそうはしなかった。
その代わり、自分の明日を、自分の手で切り開きました。
碧の選択に、すがすがしい感動を覚え、応援したくなるのです。
自分の幸せは、自分の力で見つけなくちゃね。
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