美しく装飾された「棺桶」を売る、ちょっと風変わりな雑貨店、ビオレタ。
失恋を経験した27歳の
自分の人生を、自分の足で歩いていく、すべての女性におすすめしたい小説です。
何事にも自信がなく、流されやすくて、それなのに意外と頑固で、柔軟に自分を変えることができない。
誰かに必要とされたくて、ずっと居場所を探している。
特に女性は、そういう人って多いんじゃないかな?
「ビオレタ」が、あなたに自分の力で人生を切り開くきっかけを与えてくれるかもしれません。
「ビオレタ」を解説するよ!
「ビオレタ」寺地はるな|登場人物
「ビオレタ」の登場人物たちをご紹介します。
- 田中妙…27歳で恋人に婚約破棄された。菫に拾われてビオレタで働くことに。
- 北村菫…棺桶を売る雑貨屋「ビオレタ」の主人。風変わりでつかみどころのない人。
- 千歳健太郎…ボタン屋の主人。年配の女性にモテる。妙と付き合っているが、菫の元夫。
- 北村蓮太郎…菫と千歳さんの息子。二十歳の大学生。変な両親たちの間を自由に行き来している。
他にも、千歳さんのマンションの大家さんの娘の桃子さんとか(遠いな)、その他いろいろなお客さんたちがいます。
みんな、それぞれに悩みを持ってビオレタにやってくるのです。
寺地はるなさんのデビュー作!ポプラ社小説大賞の新人賞
作者の寺地はるなさんは、ワーキングマザーのかたわら小説を書かれていました。
この「ビオレタ」で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞され、デビュー。
選考委員の方々の満場一致で受賞が決まったそうで、納得の結果ですね。
実は、その当時、ポプラ社の月刊広報誌「asta*」を定期購読していたから、寺地はるなさんのこと知ってたんだ!
asta*に載っていた短編「夢の種」は、棺桶を求めてビオレタに訪れる男性が主人公で、より「ビオレタ」が読みたくなるお話。
文庫版の「ビオレタ」に収録されています。
もっとこの人の作品を読みたいな…と思っていたことを、今になってようやく思い出しました。
「ビオレタ」寺地はるな|あらすじ・内容
妙は、婚約者の慎一に呼び出され、突然別れを告げられました。
「妙を嫌いになったわけじゃないんだよ」と言いつつも、「無理」とはっきり言われてしまいます。
理由もよくわかんないし、こんなの到底受け入れられないよ…!
道端で大泣きしていた妙を拾ってくれたのが、菫さんでした。
「道端で泣くのはやめなさい」と、厳しい態度でしたが、抗いがたい雰囲気のまま、雑貨屋「ビオレタ」で働くことに。
ビオレタは、普通の人形やアクセサリーだけでなく、「棺桶」を売っています。
棺桶って、なにかの死骸を入れる、あの棺桶…?
棺桶は、言うなれば比喩で、本当に人間や動物の遺体を入れるわけではありません。
宝石箱のようにキレイな箱で、忘れられない記憶や感情、思い出の品など、行き場のないものたちを入れるもの。
ときには、入れるものの大きさによってオーダーメイドで作られることも。
お客さんが望めば、棺桶はビオレタの庭に埋められます。
「棺桶あります」と看板を出しているわけでもないのに、新しいお客さんが定期的に買いにくるのです。
こういう雑貨屋さんって、インスタとかクチコミ掲示板で評判になっていそうだよね。
婚約者にはフラれるし、仕事もうまくいっていないまま結婚を理由に辞めてしまったし、何事にも自信を持てない妙。
ですが、菫さんや千歳さんら、ビオレタと周囲の人々との出会いを通じて、少しずつ変わりはじめます。
とりあえず誰かとつきあう、の先にあるもの
菫さんが商品を作るのに使うボタンは、千歳さんのお店「チトセボタン」で買っています。
妙は、おつかいで出かけたときに千歳さんと出会い…慎一のことを忘れようと、手近だった千歳さんとつきあうことに。
失恋あるあるすぎて、逆にドン引きなんだけど…!
千歳さんは、女の子に優しくて、たくさん話を聞いてくれて、柴犬みたいな人。
だけど、妙は最初、千歳さんのことなんて全然好きじゃなかったんです。
とりあえず付き合っただけだから。
千歳さんを都合よく扱いすぎだよね…。
普通なら、そんないい加減な始まり方だと、妙の気持ちが落ち着いたらそのうちフェードアウトしてしまいそう。
ですが、妙が成長していくにつれ、千歳さんとの関係性も変わっていきます。
見えてなかったものが、見えるようになってくる。
揺らがないでいられる人なんて、本当はどこにもいないのです。
ふたりがどんな道を歩むのか、本作を読んでみてほしいな。
人に必要とされる存在になりたい
妙は、マイナス思考で、なんでも先回りして考えすぎる性格。
必要とされていないのがつらい。
いてもいなくてもどうでも良いような存在である自分、というのがつらい。前の会社でもそうだったし、慎一のことだってそうだ。慎一を失うことそのものより「僕の人生に必要のない存在」と自分が認識されたということがつらかった。
誰だって、誰かに必要とされたいし、ここにいていいんだよって言われたい。
逆に言えば、妙は、誰かに「必要だよ」と言われ続けていないと、自分ひとりではそう思えていないってこと。
慎一と婚約していたときは、そのことが存在を許された証になっていただけ。
そんな気持ちのまま結婚しても、慎一に依存し続けるだけだよね…。
ビオレタで菫さんと出会ったことで、「菫さんみたいに、揺るぎなくなりたい」と願うようになります。
だけど、菫さんだって、ずっと順調な人生というわけでもありません。
千歳さんと結婚したことにも、蓮太郎を産んだことにも、複雑な感情がありました。
人は、どうしても自分から見える一面だけで判断してしまうし、他人を無条件に強く大きく感じてしまうけれど、誰だって誰かに支えられたいのです。
「ビオレタ」は、母親観を見つめ直す物語
「ビオレタ」は、失恋からの再生物語であると同時に、母の物語でもあります。
結婚の先には、出産や子育てが待っています。
「幸せ」のものさしは、どこにあるのか…それは人それぞれ。
妙の母親は、「子どもを産んでこそ、女は一人前」というようなことを言うので、妙はモヤモヤします。
子どもを生むどころか、婚約破棄された私はどうなるの?
女の幸せって何なの?
菫さんは、離婚したけれど元夫の千歳さんとも交流があるし、ちょっと変わった母親像。
妙の姉も、義理の妹(弟の奥さん)も、すでに結婚して子どもがいるし、妙だけが「母」の要素がまったくないのです。
芯になるものがなくて、頼りなく揺らいでいる妙が、さまざまな母親像を通して、自分の「揺るぎなさ」を見つけて、誰かにとっての「庭」になるストーリーでもあるのです。
「ビオレタ」寺地はるな|恋や仕事がうまくいかない人におすすめの小説
「ビオレタ」は、恋や仕事がうまくいかなくて、自分に自信がないと感じる人に、読んでほしい作品。
自信って、身につけようと頑張ってなんとかなるものじゃないもんね。
いつかは、誰かに認めてほしい、優しく受け入れてほしいと求めるばかりの人間ではなく、誰かを受け入れて励ましてあげられる、大きな人になれるように。
「ビオレタ」は、そんな人たちのよりどころ、「庭」になってくれることでしょう。
あなたなら、棺桶に何を入れますか?
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寺地はるなさんの作品が大好きで、最近ハマっています。
どれもフラットな視点で、弱者に優しく、心があたたまりますよ。
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